第127話

 しばらく私が体を少し震わせていると、苺坂さんはまた元の笑顔に戻った。

 そして、

「やはりそうだったのですね!前々から少し、お話がしたかったのです。今からできませんか?」

 と彼女はにっこり笑って言った。

 途端に、教室がざわざわと騒がしくなった。

 ―――妖精の姫がなんでこんな奴を?―――

 ―――まさか、姫が認めたのかしら。―――

 ―――まぁ姫にとっちゃフラれた人の彼女だもの、一言言いたくなるのも当たり前よね。―――


(……フラれ、た…………?)

 クラスメートの会話のなかに、気になることがあった。それは近くにいた雪ちゃんにも聞こえてたらしく、こっそり教えてくれた。

 曰く、『妖精の姫こと苺坂 桜子は一度、泉川 翔にこっぴどくフラれている』らしい。

 なるほど、だからさっきそんなことを言ってたのね・・・と、一人納得する。

「………話をしたいのはわかるけど、確かもうチャイムが―――。」



 キーンコーンカーンコーン・・・



 ―――と思ったところで、五時間目の予鈴がなった。クラスメートがまだざわざわしながら席に戻っていく。

「……放課後でも大丈夫かな。もう五時間目になっちゃうし………。」

 私はまだ、うちの教室にいる苺坂さんに聞いてみる。

 けれど、反応がない。心配になって、彼女に近付いた。





 ―――その瞬間。

「………ちっ。」

 小さく舌打ちが聞こえた。

(………え?)

 今の・・・苺坂さんが?なんで・・・?

 体がまた震え始める。寒気がして、周りの温度が下がった気がした。

 それに気付いた雪ちゃんが、手をギュッて握ってくれた。

 苺坂さんはまた笑顔になると、

「それじゃあ、また放課後に来ますね!」

 軽やかに教室を出ていった。


 彼女が教室を出ていったと同時に、私は止めていた息を吐いた。なんでかはわからないけれど・・・息が、できなかった。どうしてか、とても怖かった。

「………大丈夫?桃香。平気?」

 雪ちゃんが心配そうに聞いてくる。

 怖かった、けどそれを悟られたくなくて私は口角を上げて笑った。

「大丈夫だよ雪ちゃん。ありがと、心配してくれて。」

 たぶん、私の無理矢理な笑顔に気付いてると思う。小学校からの付き合いだからね。

 でも―――たぶんだけれど。

「………なら、いいけどね。溜め込み過ぎないでよ?なにかあったら言ってよね、心配してるんだから。」

 ・・・ほら、それを気付かないふりして声をかけてくれるんだ。いつもいつもありがとう、雪ちゃん。それから―――




 ちゃんと言えなくて、ごめんね。

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