第2話
「コンビニ寄って帰ろうぜ」
「買い食いは禁止されてるんじゃないのか?」
「お前も堅いよな、ばれなきゃ大丈夫だ」
「そう言うものか」
そこには、これでもかというほどの自転車が重なるように並び、そこから自分のものを探し出すと、それを引っ張り出しまたがる。
不思議とそれだけの量があっても迷うことはなかった。それは、およその位置を覚えていたかもしれなかった。
同じく、蜷川も自転車を見つけると、引っ張り出し、一ノ瀬の元に寄る。
「まって、俺も行く!」
遅れて現れたのは、斎藤健。そして3人は連れ立って、自転車を滑らせる。
通学路には、部活帰りの仲間たちが、まるで黒蟻のように列をなす。
「ラブフォーの新曲出たの知ってるか?」
「知らない、俺は曲には興味ない」
「つまんねーやつだな、今度カラオケで歌ってやろうと思ってたのに」
「お前、歌だけはうまいもんな」
「だけはっていうなよ」
ペダルは軽やかで、まるで背中を押してくれるかのように風が流れる。
その風で稲穂がサラサラとゆれ、先ほどまでに熱せられた体を癒してくれるようだった。
そんな田んぼ道を抜けると、しばらくは街中が続く。
彼らは、グッとペダルに力を込めると街中に飛び出す。
田んぼ道に比べると、空気は重く、汚れたような感じを受けるけど、そんなに気にするほどではなかった。
◇
3人は途中のコンビニにたどり着くと、各々スポーツドリンクを買ったり、パンを買ったりして、各々思い思いに過ごす。
「中沢、うっとおしかったよな」
「ほんとにそう思てるのか?」
「なんだよその言い方」
「健もそう思うだろ?」
蜷川が健に声をかけ、そちらを振り向くと、健はなぜか険しい顔をしていた。
「どうした健?」
「こけた」
そう言うと健はすっと立ち上がり、眺めていた方向に走りだす。
一ノ瀬と、蜷川にもその原因がすぐにわかり、2人の顔色は傍から見ても分かるくらいに変化していた。
2人もすっと立ち上がると、健の元に駆けつける。
健はすでに、そのおばあさんを抱えているところだった。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、お若いの、お気になさらず」
「そう言うわけにはいかないよ」
「蜷川、荷物頼んだ」
そう言われた蜷川は、それは当たり前という顔で、そのおばあさんの持っていた荷物を拾いにかかるのだった。
「お、もい。ばあちゃん、こんな重い荷物一人じゃ無理だよ。自転車持ってくる」
そう言うと、蜷川は車道の向こう側へ行き、先ほどまで乗っていた自転車を引いて戻ってくるのだった。
「お前たちの自転車はどうする?」
「おばあさんを送ってからでいい」
3人からは、いつものふざけた顔は消えていた。蜷川は、先ほどの重い荷物を持ち上げると、自転車の荷台に括り付け、健はおばあさんを抱え、4人して歩き出すのだった。
「わるいねぇ」
「気にするな。こう見えても俺はおばあちゃん子だからな。困ってる姿見たらほっとけない」
蜷川はそう話すと、誇らしげに胸を張る。そんな姿を見て、一ノ瀬は少しうらやましいとも思えるのだった。一ノ瀬のおばあさんはその時すでに亡くなっていたからだ。
それは一ノ瀬が生まれてほどなくのことだった。
「ばあちゃん、ここは車も多いし気を付けたほうがいいぞ」
そう話すのは、健。健はまじめな性格をしていて、グループの中でもトップクラスの成績だった。だから、テストが近づくと健は皆に引っ張りだこになる。
だけど、健自身嫌な顔を一つせず応じてくれ、それは俺の勉強にもなるという理由と言っていたけど、一ノ瀬は知っていた、健はほんとに優しい奴だと。
そうして3人は、連れ立っておばあさんを送り届けるのだった。
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