第2話


「コンビニ寄って帰ろうぜ」


「買い食いは禁止されてるんじゃないのか?」


「お前も堅いよな、ばれなきゃ大丈夫だ」


「そう言うものか」


 そこには、これでもかというほどの自転車が重なるように並び、そこから自分のものを探し出すと、それを引っ張り出しまたがる。

 不思議とそれだけの量があっても迷うことはなかった。それは、およその位置を覚えていたかもしれなかった。

 同じく、蜷川も自転車を見つけると、引っ張り出し、一ノ瀬の元に寄る。


「まって、俺も行く!」


 遅れて現れたのは、斎藤健。そして3人は連れ立って、自転車を滑らせる。

 通学路には、部活帰りの仲間たちが、まるで黒蟻のように列をなす。


「ラブフォーの新曲出たの知ってるか?」


「知らない、俺は曲には興味ない」


「つまんねーやつだな、今度カラオケで歌ってやろうと思ってたのに」


「お前、歌だけはうまいもんな」


「だけはっていうなよ」


 ペダルは軽やかで、まるで背中を押してくれるかのように風が流れる。

 その風で稲穂がサラサラとゆれ、先ほどまでに熱せられた体を癒してくれるようだった。

 そんな田んぼ道を抜けると、しばらくは街中が続く。

 彼らは、グッとペダルに力を込めると街中に飛び出す。

 田んぼ道に比べると、空気は重く、汚れたような感じを受けるけど、そんなに気にするほどではなかった。





 3人は途中のコンビニにたどり着くと、各々スポーツドリンクを買ったり、パンを買ったりして、各々思い思いに過ごす。


「中沢、うっとおしかったよな」


「ほんとにそう思てるのか?」


「なんだよその言い方」


「健もそう思うだろ?」


 蜷川が健に声をかけ、そちらを振り向くと、健はなぜか険しい顔をしていた。


「どうした健?」


「こけた」


 そう言うと健はすっと立ち上がり、眺めていた方向に走りだす。

 一ノ瀬と、蜷川にもその原因がすぐにわかり、2人の顔色は傍から見ても分かるくらいに変化していた。

 2人もすっと立ち上がると、健の元に駆けつける。


 健はすでに、そのおばあさんを抱えているところだった。


「大丈夫ですか?」


「あぁ、お若いの、お気になさらず」


「そう言うわけにはいかないよ」


「蜷川、荷物頼んだ」


 そう言われた蜷川は、それは当たり前という顔で、そのおばあさんの持っていた荷物を拾いにかかるのだった。


「お、もい。ばあちゃん、こんな重い荷物一人じゃ無理だよ。自転車持ってくる」


 そう言うと、蜷川は車道の向こう側へ行き、先ほどまで乗っていた自転車を引いて戻ってくるのだった。


「お前たちの自転車はどうする?」


「おばあさんを送ってからでいい」


 3人からは、いつものふざけた顔は消えていた。蜷川は、先ほどの重い荷物を持ち上げると、自転車の荷台に括り付け、健はおばあさんを抱え、4人して歩き出すのだった。


「わるいねぇ」


「気にするな。こう見えても俺はおばあちゃん子だからな。困ってる姿見たらほっとけない」


 蜷川はそう話すと、誇らしげに胸を張る。そんな姿を見て、一ノ瀬は少しうらやましいとも思えるのだった。一ノ瀬のおばあさんはその時すでに亡くなっていたからだ。

 それは一ノ瀬が生まれてほどなくのことだった。


「ばあちゃん、ここは車も多いし気を付けたほうがいいぞ」


 そう話すのは、健。健はまじめな性格をしていて、グループの中でもトップクラスの成績だった。だから、テストが近づくと健は皆に引っ張りだこになる。

 だけど、健自身嫌な顔を一つせず応じてくれ、それは俺の勉強にもなるという理由と言っていたけど、一ノ瀬は知っていた、健はほんとに優しい奴だと。


 そうして3人は、連れ立っておばあさんを送り届けるのだった。

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