第18話「俺はチコナとのパジャマパーティーのために来たんですよ!」
「ところでチコナちゃん。ケイタちゃんはどうもお客さんというわけではなさそうだけど、彼がそうなの?」
チコナが生活しているアパート「グラディウ荘」。その大家であるイズニールとチコナがワケありな視線を交わしている。
…………なんだ?
「えぇ、一応」
「ふぅん」
チコナが頷いたのを見て、なぜか俺の方をジロジロ見てくる大家さん。
話が見えてこないので、俺は二人の会話に割り込むことにした。
「あの、何の話ですか?」
「あ、ごめんね~。あなたはここに入居しに来たのよね?」
「入居……まぁ、そうですね。部屋が空いているのであれば」
「ッ!! 空いてるわ! 良かったわねチコナちゃん!」
「ッ!! はい……っ!」
なぜか嬉しそうにしている二人。
すると、チコナが手をもじもじさせながらこちらをチラチラ見てくる。
「ん? なんだチコナ、もしかして俺と一つ屋根の下で暮らすのがそんなに嬉しいのか? なんなら俺が添い寝してあげるけど」
「ち、違いますよ!」
違うんだ。ちょっと期待したのに。
「じゃあ何をそんなに喜んでるんだ?」
「よ、喜んでなんか……いませんっ!」
と反論しつつも、相変わらずそわそわして、手をもじもじさせている。
「あんら~? もしかしてこのアパートの入居条件は聞いていないの?」
「入居条件? なにそれ」
さっきチコナにも「条件がある」って言われてたな。そういえば詳しい話を聞いていなかった。
「あらあら……。なら、私から説明させてもらうわ~。このアパート、グラディウ荘に入居する条件は二つあるのよ~。一つ、アイテム屋のお手伝い。二つ、チコナちゃんとパーティを組んで冒険に出てもらうわ!」
「え、いやだよそんなの」
「「……え?」」
イズニールとチコナがポカンとしたまま動きを止めた。
「……待ってください、今なんて?」
「嫌だって言った」
俺の返事にしばし茫然する二人だったが、俺に背を向けて小声で何やら話し合い始めた。
「ちょっとチコナちゃん、どういうこと?」
「す、すいません。実は先ほど彼と一緒にクエストこなしてきまして。モンスターに襲われた際に彼を囮にしたのが悪かったのか、どうもトラウマを植え付けてしまったみたいなんです。この街に帰ってからもパーティに誘ったんですけど断られちゃいまして。けど、ここに来たらなんとなくノリと勢いでパーティーに加わってくれるかな、と思ったんです……が、駄目でしたね」
知り合って一日目の幼女に、ノリと勢いで生きてる軽い男とでも思われていたというのか。
「おーい、俺にも聞こえてるからな」
「む……。さっき、ここに連れてくる前にパーティーの件を考え直してくれると言ってくれたじゃないですか。それなのに、どうして嫌なんですか? 」
振り返って俺を不満げにジッと見つめてくるチコナ。
俺はそのチコナのまっすぐな視線と向き合い、はっきりと告げる。
「そりゃあ、危険を冒したくないからだよ。考え直したところでこれは変わらない。それに入居の条件なんて初耳だったしな。俺はチコナの部屋にパジャマパーティしに来たんだ。あくまで泊めてもらうだけで入居するつもりはない」
「そ、そんなぁ……」
「あんら~。ま、仕方ないわね。嫌がる人を無理やり冒険させるわけにもいかないし。ち・な・み・に~。泊めるにしたってチコナちゃんとは別の部屋だからね~ん」
「なんで!? 俺はチコナとのパジャマパーティのために来たんですよ!」
「なんですかそれ。初耳なんですが」
チコナが俺に冷ややかな視線を向けてきた。
それを見た大家さんはため息をついて、俺にきっぱりと告げる。
「ワタシには大家として住人を守る義務があるの」
「俺がチコナに手を出すと?」
「念のためよ~。今日の夕方頃、女性がこの辺りでは見かけない怪しい男に襲われる事件があったみたいだし~。治安が良いのがこの街の取柄なのに……。今夜はちょっと物騒だからね~。用心するに越したことないじゃない」
「うっ」
思わず、声を漏らしてしまった。
その事件、俺が犯人ってことがばれたら即刻追い出されるんだろうな。なんとか隠し通さないと。
「どうしたの~? 様子が変だけど~」
「い、いえ、別に! そんな事件も起きているようじゃ確かに用心するに越したことないですね!」
「何言ってるんですか。あなたが起こしたんでしょう」
俺を横目で見ながら、拗ねたような口調でチコナがとんでもないことを言う。
「チコナさんっ!?」
「……どういうこと?」
イズニールが首を傾げながら、チコナに尋ねる。
チコナ、それ以上はやめてお願いしま――
「そのままの意味です。その事件の犯人はこの人で、ついさっきまで交番で説教されていました」
「ちょ、チコナさん! もうやめて!」
俺は恥ずかしさや焦りから、思わずしゃがみこんで顔を手で覆った。
そんな俺を呆然と眺めていたイズニールは。
「あんら~あなたがね……。意外と積極的なのかしら。色々見込みがありそうね~」
「…………あれ、軽蔑されて追い出されるかと思ったけど……」
「確かに少し危険な人物とは思っているわ。けどチコナちゃんが連れてきたんだし、むげにするつもりはないわ~」
「そ、そうですか。安心しました」
「けどあなた、チコナちゃんとパーティを組む気はないのよね?」
「……はい」
横目でチコナを伺うと、下を向いてしょんぼりしていた。その姿を見て再び罪悪感がこみ上げてくる。
「……なぁ、チコナ。明日一緒にパーティ一組んでくれる人を一緒に探してあげるからさ。機嫌戻してくれよ」
そう話しかけると、チコナはゆっくり顔をあげて、何か決心したような表情で
「いえ、その必要はありません」
とはっきりと告げた。
「え、でも……」
「大家さん、聞いてください。この人、自分が捕まって親しい間柄の人間として私を交番に呼び出した挙句、私を腹違いの妹って嘘をついてお巡りさんの情に訴えて解放されたんです。これって、よくないですよね?」
………………は?
「な、なかなかやるわねケイタちゃん。いろいろな人と交流がある私だけど、そんなのあなたが初めてよ~……。でも、確かに良くないことね」
「もし、もしですよ。もう一度交番に行って、あの時は脅されて兄妹だと嘘をつくように強いられたと主張すれば、というかそれが真実なんですけど、この人はどうなるんでしょうか」
……ちょっと待って。
「そうねぇ……。一度交番で取り調べを受けてるみたいだし、顔や名前も記録されているでしょう。探し出して逮捕することはとっても簡単ね~」
「店番として、こき使っていただいて構いません! そして、ぜひ、俺を冒険者としてチコナのパーティーに!!」
俺は再び、冷たい床に額をこすりつけるのであった。
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