第17話「主に精神攻撃を得意にしていますので」
「これがチコナの家?」
「はい、そうです」
「どう見ても、アイテム屋っぽいんだが……」
チコナに連れられてたどり着いたのは二階建ての建物。その一階が用途のわからない薬草や液体、アクセサリーなどのアイテムを取り扱っているお店にしか見えない。
「アイテム屋兼アパートなんですよ。一階がアイテム屋で二階がアパートです。一階の奥にはアパートの入居者の共有スペースとしてキッチンやリビングがありますよ」
「なるほどね。で、これがアパートの名前?」
そう言いながら俺が指差す先には厳かな字で書かれた看板。そこには「グラディウ荘」と書かれていた。
「これは建物の名前です。なので、アパートもアイテム屋も『グラディウ荘』です。とってもかっこいいですよね!!」
「へぇ……」
アパートにしてもアイテム屋にしても、正直ピンと来ない名前ではあるが、チコナは気に入っているようなので、特に気にしないでおくことにする。
「さて、そろそろ入りますよ。……あ、一つ注意事項が」
建物の扉に手を伸ばそうとしていたチコナはこちらを振り返る。
「注意事項?」
「この扉を開けるとモンスターが出迎えてくれますが、決して驚かないように」
「モ、モンスター?」
モンスターがこの建物にいるのか? まさか飼っているとか……。
「では、行きますよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! モンスターがいるんだろ? 俺、さっき森でモンスターに痛い目に遭わされたばかりだから、できれば危険な目に遭いたくはないんだが」
「大丈夫ですよ。直接危害を及ぼしてくることはないですから」
「そ、そうか?」
「主に精神攻撃を得意にしていますので。では、気を改めまして、行きますよ」
「お、おお?」
気になる発言だけを残し、チコナがゆっくりと扉を開ける。
ゆ、ゆっくり開けないで。ギィィって音がするのが妙に怖いんだけど。
「お~かえり~ん!! チ~コナちゃ~ん! 今日は遅かったわね~ん……って、あれ?」
扉を開けると、派手なメイク顔の大柄な男が出迎えてくれた。
「ひぃっ!?」
俺は思わず悲鳴を上げて後ずさってしまう。
「あんら~? そこのナイスガイはだ~れ~? チコナちゃんが人を連れてくるなんて珍しいわね~」
全身をくねくねさせながら迫りくるドギツイ顔に圧倒されて腰を抜かし、尻餅をついてしまう。そんな俺を笑うでもなく、男は唇を尖らせながらそのメイク顔をグイグイと寄せてくる。
「あんら~。かわいい反応~。でも、ちょっとショック~」
「チ、チチチコナ! た、助けて!」
「もう、大家さん。ケイタさんをからかうのはやめてください」
「お、大家さん?」
「そうよ~ん。ワタシはこのグラディウ荘の店長兼大家のイズ二ールよ!」
イズニールと名乗った男がウインクを飛ばしてくるが、俺はそれを無視し、熱い視線から目を逸らしながら自己紹介する。
「須藤圭太と申します……。ケイタでかまいません」
「あんら~! ケイタちゃんね! いい名前~!」
なぜかクルクルと回って鼻歌混じりに踊りを始める店長兼大家さん。
あー……ちょっと苦手なタイプだ。
イズニールから視線を逸らして苦笑いしていると、急にイズニールが鼻歌と踊りをやめて、真剣な表情でチコナと視線を交わす。
「ところでチコナちゃん。ケイタちゃんはどうもお客さんというわけではなさそうだけど、彼がそうなの?」
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