第16話「条件があります」

 交番を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 電力の代わりに魔力を利用した街灯が街を彩る。 


「チコナ、助かったよ」


 少しぐったりした様子で隣を歩くチコナにお礼を述べる。


「ふぅ、まぁいいですよ。さて、私は帰ります」

「ちょっと待って! 俺は?」


 あっさりと立ち去ろうとするチコナを、慌てて止める。


「どうしたんですか?」

「俺、実はまだ宿決まってないんだ」

「…………」


 じっとこちらを見て、何やら逡巡している様子のチコナ。


「……どうして欲しいんですか?」

「ご飯と宿のお恵みを……」

「人をロリ呼ばわりしたくせにですか?」


 どうやら初対面でチコナを幼女と形容したことに不満を感じているらしい。


「うっ……。ご、ごめんなさい」

「人を勝手に交番に呼び出して、さらには妹にしたくせにですか?」

「ご、ごめんって。なんならチコナがお姉ちゃんってことでもいいから!」

「なんで兄妹設定にこだわるんですか!?」

「つれないこと言わないでチコナねぇさん!」

「姉でもないです! それに……」

「それに?」

「パーティーのお誘い、勇気出して、頑張って、お願いしたのに……」


 潤んだ瞳でジト目を向けられる。

 ぐっ……胸が痛い……。

 確かに、チコナに対して後ろめたさがないわけではないが、ここでこのチャンスを失う

わけにはいかないと本能が叫んでいた。


「その件は、その、うん。考え直すよ! とりあえず、今夜だけでもお願いします!」


 俺は膝を折り、手の平と額を地面につけてお願いする。

 そう、土下座だ。俺は今、幼女に対して土下座している。


「やだ、なにあの男。あんな小さい子に……通報した方がいいかしら」


 何やら周囲の視線が痛いが、ここは我慢だ。ぶっちゃけ、現段階でこの街の俺に対する評価は最低だ。自分一人でうまくやっていける自信が全くない。

 今、チコナから離れてしまえば俺はきっとろくでもないことになる。

 すでにろくでもないかもしれないが。


「ちょ……っ! こんな人通りのあるところで土下座なんてしないでください!」


 チコナが慌てて俺に近寄ってくるが、俺は黙って地面に額をこすり続ける。


「……はぁ、わかりました。ついて来てください」

「いいの!?」

「ええ。ただし」


チコナが右手の人差し指を突き立てる。


「条件があります」

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