第15話「メガネに対して、後ろめたいことなんてあるはずがないだろ」

「で、どうして私が呼び出されたんですか」


 無機質な部屋に入って来たチコナは、不服そうに頬を膨らませている。


「ごめん……」

「話は聞きました。私とギルドで別れてしばらくして、女性に襲いかかったとか。なにしてるんですか。私、言いましたよね。メガネが好きなのは構いませんが、限度があると。あぁ、私がもう少し傍にいてあげたら……」

「いやチコナは悪くない! 悪いのは全部俺だよ」

「ではなぜ私を巻き込んでるんですか! ギルドでのんびりしていたら、お巡りさんが突然私のもとにやって来て、『ちょっと来てくれるかな』なんて言われて、怖かったんですから……」

「ご、ごめん……。だって、知り合いって言ったらチコナとレイマンくらいしかいないし。レイマンは名前くらいしか知らないから」 

「えーと、そろそろいいかな。とりあえずお互いに知り合いのようだから、この子を連れて来てもらったけどね。君達はどういう関係?」


 俺達のやりとりにしびれを切らしたお巡りさんが口を挟んできた。

 チコナとの楽しいトークタイムを遮るとは不届き者め。 

 しかし、この場では怒りを抑え、冷静沈着にありのままの事実を答えようと思う。


「兄妹です」


「ちがいますよ! なにさらっと嘘ついてるんですか!?」


「と、いうことらしいけど?」

 お巡りさんは俺に疑いの目を向けてくる。


「ええ、確かに俺達は真の意味では兄妹とは言えないのかもしれません。腹違い……なんです」

「深刻な雰囲気を醸し出して嘘を重ねないでください!」

「そうだったのか……。すまなかったな」

「お巡りさん!? 騙されないでください!」


 先ほどまでの問い詰めるような態度とは異なり、途端に同情するような口調になったお巡りさんを見て慌てて訂正しようとするチコナの耳元に顔を寄せ、俺は小声で話しかける。


「頼む、チコナ。俺の処遇はこのお巡りさん次第だ。現行犯逮捕された俺に残された活路は、情に訴えることしかない」

「罪を認めて償う気は一切ないんですね」

「メガネに対して、後ろめたいことなんてあるはずがないだろ」

「……はぁ、分かりましたよ」


 チコナの協力を取り付けた俺は再びお巡りさんに向き合う。


「いえ、いいんです。妹がまだ俺のことを認めたくないようですが、俺がこの子を支えていかないと」

「そうか、妹さんのためにもしっかりしないとな」


 俺の肩を叩きながら、ついには涙を流し始めたお巡りさん。


「いいだろう、今回は見逃してやる。ただし、今後は気をつけるんだぞ?」

「はい、申し訳ございませんでした」

「え、あれ?」


 状況が一変し、どうすれば良いかわからないであたふたするチコナ。かわいい。


「妹さんも、まだ幼いからわからないかも知れないが、この兄のことを許し、支えてやるんだ」

「え?  あ、はい」

「よし、今日はもう帰っていいぞ」


 俺はゆっくりと椅子から立ち上がって、深々と頭を下げる。


「お世話になりました……っ!」

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