第5話「だ、誰が幼女ですか!」

「ようやく目が覚めましたか」


 その声の主を探すが見当たらない。

 というかその声は火柱の向こう側から聞こえてきたような……。


「もしかして、この火柱の向こう側にいるのか?」

「はい、そうです。びっくりさせちゃってごめんなさい。すぐ消しますね」

「消すって、どうやって?」


 この大きな火柱はそう簡単に消えるとは思えなかった。

 俺の疑問に声の持ち主は答えることなく、ぶつぶつと呟き始めると、何もないはずの空中に突如生じた大量の水が火柱の上から降りかかり、あっという間に火を消した。

 しかし……。


「今度は煙で何も見えない! ごほっ! ごほっ!」

「ごほっ! す、すいません! すぐ換気します!」


 女の子の慌てた声がする。どうやら煙の事は考えていなかったようだ。

 窓が開けられた音が数回聞こえ、煙が外に吸い出されていく。


「うう、ひどい目に遭いました……」

「俺も巻き込まれたんだけど」


 煙が晴れると、床はあたり一面水浸しになっていた。

 そして、煙が吸い出されていく窓の下に、小さな女の子がいた。


 小柄な体躯で、水色のワンピースの上にどこか和風な雰囲気のある白いローブのを羽織っている。

 銀髪のロングヘアーは動物の耳のように外にはねた髪が可特徴的だ。

 大きな瞳は煙が入ったのかうるうるしている。

 年齢は10歳を超えたぐらいだろうか。

 その顔立ちは年相応の幼さはあるものの、どこか大人びた落ち着いた雰囲気も醸し出していた。

 語彙の少ない俺が、この子を一言で表すなら――



「幼女だ……」



「だ、誰が幼女ですか!!」



 幼女が顔を真っ赤にして反論する。


「ああ、ごめんごめん。ところで君は?」


 未だに涙目の女の子は、立ち上がって胸を張って答える。


「冒険者です」


 冒険者ってあの冒険者? ゲームとかで登場するあの?


「え、噓でしょ。君みたいな小さい子が冒険者って信じられないんだけど」

「小さい子って言わないでください」

 女の子はむすっとした表情で頬を膨らませている。

 なにこれ、かわいい。こんな生物がこの世にはいるんだ……。


「私は本当に冒険者ですよ。その証拠にほら、ギルドカードだってこの通り」

 女の子は腰のポーチからカードを取り出し、俺に見せつけてくる。しかし……。


「なにこれ?」

「……え、あれ? もしかして、ギルドカード知らないんですか?」

「うん。そうみたい」

「むむむ……。でも本当に冒険者ですよ。さっきだって何もない所から火や水を出したでしょう? あれは魔法です」

「ああ、なるほど」


 消火しようとして水を出した時、ぶつぶつ言っていたのは魔法の詠唱だったわけか。


「……ん? ちょっと待て。さっきの火も君が出したのか?」

「はい。食事の用意をしようと思い、火を起こしました」


 料理って事……? それにしてはやけに危険を感じたんだが。


「フランベでもしようとしたの?」

「違いますよ。火を熾しただけで、まだ調理にすら入っていませんでした」

「火を熾すためだけに、あんな大きな火柱を立てたわけ?」

「火の魔法はまだまだ練習不足でコントロールができません」

「危ないな! 危うく火事になるところだったじゃん!」

「で、でもすぐに消火したから大丈夫です」


 すぐに消火できたから大丈夫って……。

 なんなんだ、異世界ってのは。日本との安全に関する感覚のずれがすさまじい。

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