第4話「ようやく目が覚めましたか」
幼い頃、火事に遭ったことがある。
その時、家の中庭で俺は仲の良かった祖父と焚火をして、焼き芋を頬張っていた。
食べるのに夢中で、知らないうちに焚火の火が家に移っていた。
気が付いた時にはすでに手遅れで、炎は木造の古い家屋をあっという間に飲み込んだ。
それを眺めながら「不細工な花火じゃのー」なんて不満げに呟く祖父を連れて、俺は慌てて安全な場所にまで逃れた。
幸い家の中には誰もいなかったが、近所の公園で餅まきに参加していた両親と祖母が帰ってきた時は皆、焼け落ちた家を前にして立ち尽くしていた。
確かに死傷者は誰一人としていなかった。しかし、それでもこの火事は俺の心に深い傷跡を残した。
俺は守りたいものを、守れなかったのだ。
家の中、俺の部屋に飾られていた数々のメガネ達。彼女達を救うことができなかった。
彼女達がゆっくりと炎に炙られ、変形しながら燃え尽きていく姿がありありと目に浮かび、焦げるにおいと煙が充満する中、俺は焼け落ちていく家に向かってただ泣き叫ぶしかできなかった……。
――焦げるにおい。
かつてのトラウマを想起するような匂いが鼻をつき、ハッと目を覚ます。
「…………ここは……?」
俺は木造の建物の中に寝転んでいた。ただ、それは火事に遭った俺の家とは異なり、内装は簡素なもので家というよりは休憩するための小屋と表現した方が適しているかもしれない。
そして、寝たままの状態で顔を左に向けると。
部屋の中央ではすさまじい火柱が立っていた。
え……?
咄嗟に壁際まで後ずさる。驚きのあまり声が出ない。目を見開くが、どう見ても火柱だ。テレビで料理人がフランベとか言ってアルコールで豪快に火柱を立てるのを見たことがあるが、これはどう見てもそれ以上の大きさだ。
……え、すごい炎なんだけど! ああ、そうかさっき見てた幼い頃の火事の夢はこれのせいか。納得!
「何これ、どういう状況……!?」
やっとの思いで声を絞り出すと。
「ようやく目が覚めましたか」
どこからか女の子の落ち着いた声が聞こえてきた。
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