第49話

 俺がガス欠になって、アキラとニーナは途方にくれたそうだ。とにかく、タケルは連れて帰らなくてはいけないし、リオンとトピの体もだ。

 とりあえず、俺が言ったとおりトラックはその場に置いていってくれた。だが、アキラはドライオンに戻ると、たくさんの男たちとマルヤニの木で作った大きな荷台を四つ持って取って返した。二、三時間程しか経っていなかったそうだが、俺の体はタイヤ部分は完全に埋もれてしまっていたそうだ。

 夜中の作業にも関わらず、たくさんの男たちが俺の体を紐で括って砂の窪地から引き上げてくれた。

 引き上げた俺のタイヤ部分を荷台に乗せて、延々と一晩かけてドライオンの町まで引っ張ったそうだ。


 リオンとトピの体を荼毘にふしてから、アキラはトラック姿の俺の周囲にでっかい小屋を建てた。このまま野ざらしにしてしまったら、いずれ本格的に壊れてしまう。彼はもうこの時点で俺を復活させることを決めていたそうだ。


 俺の体からきれいに砂を掃き出した後、彼はホースリアスの街に行き、軽油が手に入らないか交渉に行った。だが案の定、原油は掘り起こせているが、それを精製する術を持っていなかった。

 アキラは彼らに言った、

「僕たちの手で軽油を作り出そう」

 と。

 ホースリアスに転生してきた人たちにしても、なんとかして精製しようと研究を重ねてきてる。彼らは手を組んだ。


 俺の体の中にわずかに残っていた軽油を抜き出す。最終的にこれと同じものを作り出さなくてはいけない。当然ながら研究は難渋を極める。

 以前の世界に戻ることができれば、精製するための資料など簡単に手に入るのだが、そんなことは無理だ。彼らは記憶の中に漠然と残っている知識を総動員して、濾過したり、蒸留したりと様々な方法が試みた。結果的に蒸留法を採用することになるのだが、原油を大釜で沸かして上澄みを取るという原始的な方法では俺の体から採取した軽油とは似ても似つかない代物が取れた。これを軽油タンクに入れてはあっという間にぶっ壊れてしまう。

 試行錯誤を繰り返したアキラたちの研究に転機が訪れたのは、研究をはじめてから約三十年後。ホースリアスよりもさらに北に位置する町に一人の男が異世界から転生してきてからだ。

 その男は前の世界では石油製品の研究、開発をやっていたそうでホースリアスで行われている石油事業に興味を持ってやって来てくれた。

 彼の話では軽油を採取するためには二百四十度から三百五十度の熱で軽油が留出できるそうだ。前の世界では通常、加熱炉で三百五十度に熱した原油を高さ五十メートルの蒸留塔に入れて、そこから沸点の差によって軽油だけでなく灯油やガソリンを留出する。

 だが、それらの石油製品を手にするのは今後の課題にして、とりあえずは俺に必要な軽油を手に入れるのが目的だ。その転生してきた男は知識はあったが直接、留出の仕組みを作ったことはない。

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