第46話

 瀕死のトピを抱きかかえながらリオンが顔をあげて決然と意思表示する。

「リオン……あなた」

 驚いてニーナが声をあげる。それはそうだ。つい数時間前まで異世界に行くことを強い口調で拒絶していたのだから。

「……鉄の人、時間がありません。お願いします」

 トピを抱いているために彼女の胸から下は血まみれだ。俺は鼻がないから感じられないが、おそらくかなり酷い臭いのはずだ。だが、リオンはそんなものはないような調子で俺に向かって懇願する。

「ちょっと待てよ、リオン。君は異世界に行っても生きていけないって言ってたじゃないか」

 リオンは体は俺に向いたまま視線だけをアキラに向ける。

「私は……この子の母親です。この子を助けるためなら、どんなことだってできます」

 そう言うと今度は、まだ泣いているタケルに顔を向けて、血に染まった右手を彼の頬に伸ばす。

「……タケル、ごめんなさい。お母様とトピはこれから遠いところに行かなくてはいけません。……きっと、これから悲しくて、寂しくて、辛い日々をおくるでしょう」

 この世界に突然やってきたアキラを見てきた彼女は、これからタケルの身の上に起こることを気にかけてる。

「その時は、思いっきりお泣きなさい。……遠慮をすることはありません。……そして……」

 少し視線を外したかと思うと、すぐにタケルに視線を戻して

「……正しく生きなさい」

 と、言った。

 アキラが手にしていたアクラサスの剣を鞘に収めた。

「ニーナ、アキラたちをお願いね。あなたには迷惑ばかりかけてしまっているけど」

 ニーナもいつのまにか泣いていた。頭を振り、言葉にならないしゃくるような声で応じてる。

「……リオンさん、言いにくいんだけど」

 ここで言っとかないといけないと思う。

「あなたとトピを異世界に送りこんだとしても同じ世界に行けるとは……限らないんだけど」

 俺の言葉にニーナとアキラが反応する。タケルは訳が分からずに泣いたままだ。

「だったら意味ないじゃん。……助かるんだから意味ないってことはないかもしれないけど」

 ニーナが心配そうにつぶやく。たしかに異世界に送れば、リオンの病気もトピの大ケガも治るだろう。しかし、それぞれが別の世界に行けばリオンはともかくトピはどうなるか分からない。最悪、誰にも見つからずに野垂れ死ぬこともあるかもしれない。

 だが、リオンは

「心配ありません。必ずこの子と一緒の世界に行ってみせます」

 なんの根拠があるのか分からないが反論を許さないほど強い口調で言いきった。

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