第47話
トピを抱きしめているリオンの手に力が入る。
「鉄の人、この子が死んだら元も子もありません。……早く」
そう言うとうずくまるようにトピを抱え込んだ。
俺はアキラを見る。彼は黙って俺を見つめると小さくうなずく。
彼女になにか言うことはないのか?
俺はうずくまる彼女に向けて腕を振り下ろすために両の手をあげる。
「……アキラ」
うずくまっているリオンがつぶやく。
「待っています……」
顔をあげてアキラをすっと見つめる。ニッコリと笑った目に涙がひとしずく流れる。俺はその涙を見ないようにしながら、両腕をリオンとトピに向けて振り下ろした。
「…………ねえ、リオンとトピ、本当に死んだんじゃないの?」
長い沈黙を破ってニーナが誰にともなく語りかける。その視線の先には身動きひとつしなくなったリオンとトピの体がある。そこに覆いかぶさってタケルが泣き叫んでいる。
「死んでない。ちゃんと彼女たちの魂は異世界に飛んで行ってる」
それを言ったのは、俺ではなくアキラだ。アキラは「そうだろう」とでも言うように、こちらに視線を移す。それは間違いない。
……だが、俺はその視線を無視して姿をトラックに変える。
「……どうした?」
アキラは俺の挙動に疑問を持ったようだ。それはそうだ。こんな砂の固まっていない窪地の底でトラックに戻ってもどうしようもない。本来ならロボットの姿で道まで這い上がってから、トラックに姿を変えるべきだろう。
だけど、もうそれは無理だ。
「……悪い。本当なら君たちをドライオンまで送り届けないといけないんだけど。……限界だ」
「限界?」
「……ガス欠なんだ」
さっきの異世界転生で残り少ない軽油をほぼ使い切ってしまった。あと一分も持たないだろう。
「ガス欠って……。だったら、給油すればいいじゃないか」
「……なに言ってるんだ。……この世界のどこに精製された……軽油があるってんだ」
「……ホースリアスで石油が採れてるじゃないか」
「……あんな原油を放り込んだら、俺のエンジンがいかれちまうよ」
十歳にも満たない年で、この世界に転生してきたアキラには石油や軽油、ガソリンの違いなんて分からないのだろう。
「……もうじき俺のエンジンは止まってしまう。だから、……最後に本来の……自分の姿に戻っておきたかったんだ。……君たちはなんとか……自力でドライオンまで戻ってくれ。……俺はこのまま置いていってくれていい」
「なに言ってんのよ!置いてけるわけないじゃない」
ニーナが俺の体に触れながら、必死になってくれる。
「……もう、俺は役には立たない。……最期にリオンさんたちの命を救えた……だけでもよかった」
なんのために、この世界に来たのか分からなかったが、少なくとも役に立ったと思えて終わるのなら申し分ない。
「最期だなんて……そんなこと言わないでよ」
今度は俺のために泣いてくれるのか。うれしいよ、ニーナ。
アキラは黙ったまま俺を見つめている。なにを考えているか分からないが、もうそんなことまで考えてる余裕もない。
「……アキラ、ありがとうな。……君が無事でいてくれて本当に良かった」
……エンジンが止まり、意識がじわじわと薄くなっていく。視界が暗くなり、すべてが闇の中に……沈んでいく。
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