第44話

「お前、勝手に入ってくんなよ!三人も乗れるようになってないんだから」

 リオンをかばいながらもアキラはニーナに悪態をつく。

「ちょっと、なによこれ?どうなったらロボットがこんなふうになるわけ?」

 その言葉を無視してニーナが運転席を見回す。……そこは突っ込まないでほしい。

「とにかく出るぞ。子どもの足ならそんなに遠くまで行ってないはずだ」

 俺はガス欠寸前のエンジンを奮い立たせて走り出した。


 運転席側にアキラ、助手席にニーナ、その間にリオンが座っている。走っている最中、ニーナが運転席にあるいろいろなものに興味を示して少々ウザい。

「アキラの前にあるのはなに?ハンドル?なんに使うの?足元にあるのは?ハンドルから変な棒が出てるじゃない。なんでそんなのがあるの?」

 最初のうちこそ、アキラも相手をしていたけど一分もしないうちに無視するようになった。ニーナよりも彼らの間で息も絶え絶えのリオンの方が気がかりだ。

 日増しに具合が悪くなる中で、昼間にアキラと大げんかをしてその上、子どもたちが行方不明になっている。彼女にしてみればおとなしく寝ているなんてできないのだろう。だからといって出てきたってなにができるというわけじゃないが。

 アキラはリオンの肩を抱いて心配そうに見つめている。ニーナももう、うるさくするのをやめて黙ってリオンの手を擦ったりしながら声をかけ続けている。

 俺は一目散にドライオン出て、一路砂漠の道を灯りをつけて走り続ける。

 ただ、やみくもに走ってもどこにタケルたちがいるのかわからない。俺が走れる隊商の道を通ってくれていればいいが、単純にまっすぐ突っ切っている可能性も高い。そうなるとあの小さな二人を見つけるのは厄介だ。こんな時、子ども用のGPSがある世界がうらやましい。

 アキラもニーナも車窓から目を凝らして外を見ている。だが、見えるのは暗い砂の世界だけだ。


 十分ほど走るが、それらしい影は見つからない。小さな子どもたちが、朝からとはいえ、ここまでやって来てるとは考えにくい。これは気づかずに、どこかで追い越してしまったか……。

 引き返すためにUターンしようと減速したら、突然、

「鉄の人!左です!!」

 さっきまで目を瞑りながら、荒い息をあげていたリオンが目を開けてニーナの方に体を乗り出して車窓から外を見る。

 俺は車体を左に向けてヘッドライトをハイビームにして遠くを照らしだす。

 明かりに照らされた、砂地の中を巨大な細長い影が暴れているようだ。

「ヴュステヴルムか!?」

 アキラが運転席から叫ぶ。

「外に出して!子どもたちが泣いてます!!」

 リオンは、おそらく俺に向かって叫んでいるんだろう。簡単に言ってくれるなよ。走ってる最中さなかにドアは開けられない。中古車だが、その程度の安全弁は働いてる。

 とりあえずパワーウィンドウを下ろす。風にまぎれて砂が車内に舞いこむ。

「ちょっ……、なにやってんのよ!……ペッ……ペッ」

 ニーナの顔に砂が被ったのか、唾を吐き出しながら文句を言ってくる。俺に言うな。

 当のリオンは砂が顔に当たっているのも気にせず、目を瞑って一心に耳を澄ましてる。

「……タケル!……あなたっ、タケルの泣き声です!!」

 リオンは目を開けたと思ったら、アキラに怒鳴る。

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