第39話

 アキラの言うとおり日が昇って地形がわかると緩やかな勾配がなんなく見つかった。ただ、大きく迂回する必要がある。とても、一時間かそこらでは戻れそうにない。

 隊商が通ってできた固く均された道じゃないとトラックで走ることができない。アキラはエアコンがかかった車内じゃないと真っ昼間の砂漠越えなぞ無理だ。

「とりあえず歩けるだけ歩こう」

 そう言って考える間もなく一人で歩きはじめた。

 俺はできる限り自分の影にアキラを隠すように歩く。焼けた砂地からの熱もあるからたいした差は無いかもしれないが、何もやらないよりはマシだろう。

 アキラは汗をかきながらも黙々と歩き続ける。本当になにを考えているのかわからん。

「お前、帰ったらどうするつもりなんだ」

 俺の問いかけにも反応がない。暑さで参っているからか本当に話したくないのか。だが、このまま手をこまねいてるつもりはないはずだ。


 隊商の道に戻ってトラックに変形して、汗みどろのアキラを運転席に乗せて出発する。

 順当にいけば、あと二日でドライオンの町に帰りつく。俺の境遇もそこで決まる。リオンさんをホースリアスに連れて行くことも、ステファン医師をドライオンに連れてくることもないのだから、もうこれ以上、彼らの役に立つこともないだろう。後ろ髪を引かれる感じがするが仕方がない。

 ……それにしてもどうして俺はこの世界に来ることになったのだろう?まがりなりにもアキラもステファンもこの世界で足跡を残す仕事をしてる。もう一日分の燃料も残っていない俺はこの世界でどんな役目があったのだろう?何匹かのミミズやドワーフを異世界に送り込んだくらいだが果たしてその程度の役回りしかなかったのか。

 そんなことをぼんやり考えながら砂漠の行程がそろそろ終わる。


「断る!」

 俺は即答した。

「他に方法はないんだ!」

 アキラも譲らない。

「こんなのは方法のうちに入らない!」

 ドライオンまであと二キロメートルほどというところで停車してアキラからこれからのことを聞いた。今はそのせいで揉めているのだ。

「この世界ではもう彼女を助ける方法がないんだ。だったら……賭けるしかないじゃないか」

「そんなことをしたら、もう二度とリオンさんに会うことはできないんだぞ」

「……わかってるさ」

「わかってるんだったら……。それに子どもたちのことを考えろよ。母親から強制的に離された辛さはお前が一番分かってるじゃないか」

「君が言うのかよ」

 痛いところをついてくる。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

「俺だから言えるんだ!もうあんなことはごめんだ」

 またドライオンに向けて走り出す。

「どちらにしたって、タケルもトピもリオンから強制的に別れさせられるんだ。……だったら彼女が生きる方がよっぽどいい」

「………」

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