第38話

 そのドワーフの締め上げている力が軽くなった気がした。奴の顔を見るとあらぬ方角を見つめてる。俺もその視線の先を見やると、アキラがランタンを円を描くようにクルクルと回しながら近づいてきた。

「……なにやってんだ、あのバカ」

 それじゃドワーフの気をこちらに向けた苦労が台無しだ。

 こちらの気遣いを知らないのかアキラはなおもランタンを回し続けてる。止めさせなくちゃいけない。

 そう考えてるとドワーフの奴が尻尾を外して両手両足で俺を押さえつけるようにして立ち上がった。

「そっちかァァァァァァァァァッ!」

 言うが早いかドワーフは俺を足場にして地を蹴るように、アキラに向かって飛びつく。アキラはランタンを奴に向けて投げつけたと同時に後ろに飛び退いた。

 アキラの姿がフッと消え、ドワーフにぶつかったランタンからその灯りが消えた。

 大急ぎで立ち上がった俺はヘッドライトの灯りをドワーフたちの方角に向ける。ヘッドライトの灯りがドワーフの背中を照らし出す。その灯りをたよりに奴は砂の窪地を見つめていた。

「そこだァァァァァァッ!」

 どうやらアキラは窪地に落ちたらしい。いや、わざと落ちて逃げようとしたのかもしれない。だが、俺のヘッドライトがその目論見を台無しにしてしまったか……。

 そんなことで気を病んでる間もなく俺は奴の背に向かって飛びかかる。ドワーフの尻尾を掴むとアキラを捕まえようとしたドワーフ共々、窪地の中に落っこちる。


 その時、俺の右手から例の力が発動しはじめた。俺はその右拳を奴に向かって振り下ろす。


 ………俺とドワーフは数メートルの窪地の底にダイブする。もうドワーフの体に意識はない。その魂はどこか別の世界に飛んでいってしまった。

 砂の窪地の底で立ち上がって辺りを見回す。ヘッドライトで周囲を照らすがアキラの姿が見えない。

「アキラァ。どこだあ?」

 闇の中で声を張り上げる。……返事がない。たしか、この下に落っこちたと思ったんだが。ドワーフの下敷きになったか砂地に埋もれたか。そう思ってドワーフをどかしてみるがいない。……いったいどこに?

「ここだよ」

 アキラの声が聞こえた。しかしずいぶん小さいぞ。声のした方角を見る。首を上に向けると窪地の際に小さな人影が見える。胸を反らして、そこにヘッドライトを当てる。

 そこには枯れ木の根につかまって、ぶら下がっているアキラがいた。

「なにも落っこちなくてよかったのに。……うわっ!!」

 砂地に埋もれていた枯れ木がアキラの重みに耐えられなくなったのか音をたてて崩れ落ちる。つかまっていたアキラも一緒に窪地の底に滑り落ちて来た。

「なにも落っこちなくてよかったのに」

 俺の足元にまで滑り込んだアキラに向かって憎まれ口を返す。


 一難去ったのはいいが、どうやってここから這い出ようか。俺は窪地の底から上を見上げて考え込む。

 俺とドワーフが勢いよく落っこちたせいで、固まっていた砂地がだいぶ崩れてサラサラと滑るようになっていた。アキラが落っこちてきたのも、それが原因だ。

 そのアキラは俺の気苦労をよそにさっきからずっと動かなくなったドワーフの体を見つめていた。

「なにやってんだ?」

 俺の言葉が届いていないのか?アキラは屈んでドワーフの体をなでながら、なにかつぶやいているようだ。

 ……まあいい。とにかくここから抜け出ないと。俺はとりあえず登ってみることにした。案の定、砂の壁に足がかからずにズルリと滑ってしまう。

「ええい、ちくしょう!……おい!お前もなんとかここから抜け出す方法を考えろよ」

 何度も登っては滑り落ちるを繰り返すと嫌でもイライラが増してくる。だから、いまだにドワーフのそばから動かないアキラに悪態をつかないとやってられない。

 それでもアキラは何もしようとしない。いや、動き出したと思ったらドワーフの体を背もたれにして脚を伸ばして座り込んだ。

「おい!」

 怒った俺はアキラのそばまで歩いて注意する。だが、彼は平然と

「日が昇るまでここで休憩だ。明るくなれば地形が見えて抜け出す方法が見つかる。日が昇ってから一時間くらいなら多少、暑くったってなんとかなるだろう。今から慌てて体力を使ってもしょうがないよ」

 言うだけ言っていびきをかき出した。

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