第37話

 ランタンをつけたアキラはこちらを振り向きもせずずんずん進んでいく。俺もヘッドライトを点けたまま後をついていく。

 灯りの先を見るとたしかになにか動いているのが分かる。砂の下を何かが這いずり回ってる感じだ。と、なるとミミズか?いや、トカゲだって日中は地面の中に隠れているって話だったじゃないか。

 そんなことを考えていた矢先に、その地中が急に盛り上がった。

「イッタダキマアァァァァァッス!」

 盛り上がった地面から何かが叫びながら飛び出してきた。

 禿げ上がった頭とギョロ目に巨大な口。尻尾の生えた茶褐色の体はトカゲと見まごうが、

「「ドワーフっ!?」」

 俺とアキラは同時に叫んで確認する。領主ヴァルヴィオの屋敷を潰した、あの妖精ドワーフと同じ格好の化け物がその口を開きながら、アキラに向かって襲いかかる。

 彼は砂地を蹴って後ろに向かってジャンプする。アキラが一秒前まで立っていた場所に今はドワーフが着地している。

「おっとなしく食われてくれよォォォォォォッ!」

 物騒なことを言いやがる。そう言えばこいつは人間の男を食べるんだった。そうなると狙いはアキラか。

「アキラ!俺の後ろに下がってろ」

 アクラサスの剣の分子を振動させて破壊する力はドワーフの皮膚には通じない。だから剣の鞘の内側にその革を張ってある。つまり今のアキラは目の前の化け物には敵わない。

 だったらこの場でこいつと戦えるのは俺だけだ。アキラは珍しく俺の言う通りに下がる。ちゃんと自分が足手まといだと自覚してるらしい。おかげでやりやすくなった。

「……お前、鉄と油の臭いがするぞォォォォォォッ!嫌な臭いだァァァァァァッ」

 ドワーフはそう言うと上半身を低くして四つんばいのような恰好でこちらに突進してくる。このまま避ければ奴とアキラがぶつかり合ってしまう。ここは踏みとどまる!

 奴のタックルをまともに受けて数メートル砂地を滑るがなんとか踏ん張れた。奴の腰を抱え込むように持って膠着状態に持ち込む。

「グアァァァァァァッ!」

 ドワーフのでかい口が俺の肩にかぶりつく。食えないのだから、もちろん歯は立てられない。だから無意味だってば。

 突然、俺の視界に空が映る。

 俺と奴の体が横に倒れ込んだのだ。奴の尻尾が俺の足をひっかけて刈り上げた。尻尾で大外刈りか!?粋なことをやりやがる。

 しかし、いつまでもこの状態をキープしているわけにはいかない。俺にできる唯一の攻撃はこいつの魂を異世界に送ることくらいだ。でも、そのためにはまずこいつから離れないといけない。ある程度の距離を取る必要がある。

 なのにドワーフの奴は尻尾で俺の体にまとわりついて離れない。引き離そうとするがしっかりホールドしていやがる。

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