第36話
うっかりしていた。俺の体はディーゼルエンジンで動いているのだから軽油が無くなれば活動は止まってしまうはずだ。
こちらの世界にやってきた時にロボット形態に変わっていたから、もしかしたら軽油で動くという仕組みも変わったんじゃないかと思っていたが、どうやらそう都合良くはいかないみたいだ。
まだ運転席にはガス欠のアラームは鳴っていないが、それも時間の問題だ。トラックだろうがロボットになっていようが活動を続けてる以上は軽油も消費され続ける。
この世界のどこで軽油を確保できるのか。おそらくそんな場所はどこにもない。ホースリアスには油田はあるが、燃料として使っているのは天然ガスくらいのものだ。精製された軽油なぞまだ作られてもいないはずだ
このままいけば活動は止まって給油できないまま、お払い箱が決定だ。たぶん丸一日持たないだろう。
本来なら十年前の事故が原因で、お払い箱になっていたはずの俺が今の今まで生きてこれたんだ、御の字だ。ならばせめて何か一つでもこの世界で役に立ってからお払い箱になれたらいいのに。
「おい、休まなくて大丈夫なのか?」
さすがにアキラが心配そうに声をかけてきた。たしかにホースリアスを出てからノンストップだ。だが、さすがにこの砂漠のど真ん中で動かなくなるわけにはいかない。
「大丈夫だ。俺は人間と違って丈夫だからな」
もちろん嘘だ。多少はラフな環境でも走れるように作られているが、それは日本のような温帯湿潤気候でのことだ。ここのような砂漠気候では暑さや砂が俺の体にどれほどの影響が出るか分からない。
それでも今はまだ十分走れる。ならばその間にできることをやるだけだ。
夜になってもまだ走り続ける。ヘッドライトを点けてスピードを少し落としているが途中数回、小便で停車した以外はノンストップだ。
「ちょっと停まってくれ!」
なんだ、また小便か?俺はその言葉に従ってブレーキをかける。
「早くしろよ」
俺の言葉を無視するようにアキラは下車する。アクラサスの剣を抜剣して。
「おい、何やってるんだ?」
アキラはあらぬ方を見ながら、俺のドアを静かに閉めると
「ロボットの姿に戻ってくれ。何かいる」
そう言って視線を固定したままゆっくりと歩き出した。俺は大急ぎでロボットに変型する。
「ちょっと待てよ!何かって何だよ」
訊いたそばから自分のバカさ加減に気がつく。この砂漠で何か出たといったら巨大なミミズかトカゲの類しかないだろう。
だが、そんなものが出たからといってわざわざ降りる必要はない。やつらの足は俺なら十分振り切れる。ここで降りてやつらと対峙するのは意味がない。食えるわけでもないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます