第30話
アキラの言葉に反応ができないでいる。
「ナンバープレートの数字は違うんだ。……まあ、あんな事故を起こしたんだからスクラップになったって不思議じゃないよね」
立ち上がって運転席を見つめてくる。それは俺も不思議に思ってた。なぜ俺は十年も潰されなかったのかって。普通なら事故車はすぐにスクラップ行きのはずだ。それが何十回という人身事故を起こしておきながら、その都度レストアされて中古車市場に出されてすぐに買い手が見つかるなんてありえないだろう。
「僕を轢いた時どんな気持ちだった。それともそんな気持ちなんてなかったのかな?」
なおも痛いところをついてくる。アキラは俺の返事を待たずにオアシスに向かって歩き出した。
道に放り投げた水筒を拾い上げてからサンダルを脱いで木陰を選ぶ。そして池の淵に座って足を水に漬ける。
上半身を地面に放り投げ、手を上に伸ばしたまま横になる。そしてそのまま眠ってしまった。
このまま黙って行ってしまおうか。せっかく元のトラックに戻ったのだから砂地とはいえ均された道を選べば走るのに支障はないだろう。
エンジンをふかしてバックする。
体から「バックします」という音声が流れる。これが結構でかい。アキラが起きるんじゃないかとヒヤヒヤしながら止まって見る。幸い、眠りが深いのか起きる気配はなさそうだ。
だが、このままじゃ俺の中から流れる「バックします」メッセージで目を覚ます可能性が高い。とりあえずいったんロボットに戻ってから、オアシスを遠く離れてからトラックになればいいだろう。
さて、そうと決まれば早速変形だ。俺はロボットに戻るよう念じてみる。荷台のコンテナがパックリと割れ、手足に変わる。運転席のある前面と底面がボディに変わって内部から頭が現れる。……こんな仕組みになってたのか。もう少し複雑だと思ってたのに。
変形時の音も結構でかかったが、それでも起きない。やれやれだ。
「じゃあな……」
寝ているアキラに別れを告げて俺は一歩踏み出した。
「………お母……さん」
出ていこうとした途端にこれだ。こいつの寝言を聞かなかったことにしたいができない。
ちくしょう、こいつ本当は起きてるんじゃないだろうな。
ヘッドライトを点けて池を照らす。その光に寄ってきた魚をアキラが器用に素手でつかみ取る。小刀ではらわたを抜いて手作りの串にさして焚き火で焼きはじめた。
結局、夕方になってのこのこと目を覚ましたアキラは
「トラックで走るんだったら、昼間の方が走りやすいだろう。ヴュステアイデもヴュステヴルムも自動車のスピードだったら追いつけないよ」
と、こちらの意向を無視して話を進めてきやがる。
そのまま朝になるまでオアシスで一泊してから出かけることに、うやむやのうちに決まってしまった。
で、こうやって夕飯をとるために俺の機能が使われているというわけだ。
「結局、置いていかなかったんだな。……アチッ」
焼き魚にかぶりつきながら訊かれた。無視する。
「……ありがとう……な」
「礼を言われる筋合いはない。勝手にやってるだけだ。気が変わったらすぐに別行動をとる」
「了解」
串を口から抜いてヒュンヒュンと振り回しながら答えてくる。
「さて、朝まで寝るか」
そう言いながらその場で横になる。さっきまでさんざっぱら眠っといてまだ寝るのか。
アキラの言う通り結局、置いていけなかった。どうして俺はこの世界に送り込まれたか、分からなかったが彼の手伝いをするために呼ばれたのかもしれない。そう思うことにする。少なくとも人助けになるのだから。
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