第28話

 固く均された道はたしかに歩きやすい。俺の体重でも全然足が沈まない。

 ただ、俺の歩幅だとあっという間にアキラを追い抜いて引き離してしまう。さっきとは立場が逆転してしまっている。

 俺は優しいから、時折振り返っては彼が追いついてくるのを待つ。そうすると追い抜きざまに

「サンキュ!」

 ランタンを掲げて礼を言って先に進む。

 それを繰り返しながら日が昇りはじめたら、岩陰を探して、休憩を取る。……はずだったが、

「もう少し進もう。この先に隊商たちが休息に使っていたオアシスがあるはずなんだ」

 そう言って太陽がその姿を全て現しても歩くのをやめない。

「君と違って水を飲まないと生きていけないからな」

 微かにチャポチャポと水の音がする水筒を揺らす。

 まあ、昼間の方が化け物が出てくることはないそうだから安全なんだろう。だけど、普通の人間のアキラはこの砂漠の日射しに参ってしまうんじゃないか。実際、息があがってるように見えるぞ。

 地平線の先に緑の葉を繁らせた樹が見える。あそこがオアシスなのか。拓けている場所だと近く感じるが、ざっと見ても二、三キロメートル以上の距離があるんじゃないか?そこまでこいつが保つとは思えないが。

「アキラ、その水筒を貸せ。俺がひとっ走り行って水を汲んで戻ってきてやる。君はそこの岩陰に隠れて待ってろ」

 俺は手を差し出す。彼は息も絶えだえに、

「よせやい、君のそのでかい手でこの水筒が開けられるもんか。むしろ僕ごとあそこまで連れていってほしいな……」

 そう言ってオアシスを指さしてこちらを見る。

「連れていくって……どうやって」

 今の俺の鉄の体は日射しの熱でガンガンに熱くなってるはずだ。そんな体で担いだらアキラがローストになっちまう。

「………悪い、やっぱ頼むわ」

 アキラはたっぷり考えた後、俺に五個の水筒を手渡して、自分は近くの岩陰に潜り込んでいった。

 俺は水筒を受け取って一路、オアシスに向かって駆け出した。

 あいつがなにを言おうとしていたのか分かる。俺をトラックに戻して連れて行かせようと考えていたんだろう。連れて行かせることよりも俺の正体を知ることの方がだったはずだ。それをなにを考え直したのかこうやって水筒を渡して水を汲ませに行かせることにした。それだけ切羽詰まっているのか。


 三十分ほどかかってやっとオアシスに辿り着く。

 たっぷりの草地を踏み分けて水の湧いている池に腰を下ろす。あまりのんびりしていられない。一つ目の水筒のコルク蓋を引き抜こうとするが俺の指の大きさではなかなか難しい。アキラの言った通りだ。

 なんとか引っこ抜いて池に沈める。水筒の中から泡がブクブクと出てくるのを確認してから二つ目の蓋を外しにかかる。

 ……ここに辿り着くのと倍くらいの時間をかけてやっと五つ目の水筒に水を入れ終わった。ずいぶんモタついてしまった。アキラは大丈夫か?

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