第27話

「ああ、ずいぶん眠ったな」

 彼は伸びをひとつすると、荷物を置いてから岩陰に隠れた。……ああ、小便か。

 戻ってきてメシを食った後、しばらくしてからおもむろに立ち上がった。

「じゃあ、出発しようか」

 そう言うとやおら歩き出した。

 俺が立ち上がらないのが分かるとこちらを向いて

「どうしたんだ?」

 と訊いてきた。どうしたんだじゃないだろう。

「俺は君と行動を共にするわけじゃないからな」

 そう言い放つ。彼は

「あ、そうだったね」

 笑いながら先へ行く。


「あっれぇ?一緒に行くわけじゃなかったんじゃないのかな?」

 こちらを振り返りながら、いやみったらしく言いやがる。

「行先が同じなだけだ。気にしないでくれ」

 俺は砂地に足を取られながら歩くのに精一杯だから、皮肉にいちいち反応なんかしていられない。

 アキラは俺の言葉に従ってずんずんと先へ進んでいる。もうこちらを振り返りもしない。よくあんなにスムーズに歩いていけるな。

 彼の持っている灯りをたよりに地道に追いかける。気がつくと足元が砂地に埋もれなくなっている。しゃがんで地面を調べると砂地がずいぶんと整地されている。俺の重さでも沈まないくらいだから、よっぽどしっかり均されているんだろう。

 とにかくこれなら歩くのに不自由することはない。俺は遅れを取り戻すように歩みを速める。

 アキラに追いつくと

「隊商がこの砂漠を通過する道があるんだ。長い年月をかけて踏み固めて均されているから、ここだったらいくら君でも歩きやすいと思ったんだけどね」

 彼はこちらを見ずに独り言のようにつぶやいた。

「……だったらその隊商とかいうのにその設備やら医者やらを運んでもらえばいいんじゃないか」

 あの滑る荷台が何台もあれば運ぶことは可能だろう。なにも俺を頼りにすることはないだろう。

「今は砂漠の向こうとの交流がほとんどないんだ。商品の流通もね。時々、砂漠を越える人がいたら手紙を届けてもらうことはあるけど」

「どうして?」

「さっきのヴュステヴルムやドワーフみたいな怪物がうじゃうじゃ出るようになったからね。長い隊列を組んでいるとそれだけで狙われるんだ」

「……あれって昔っからいるんじゃないのか?」

「僕がこの世界に来たころから、現れたって話しだよ。砂漠が危険になった途端に戦がはじまったから逃げ出すことも武器を仕入れることもできずに大変だったらしいよ」

 他人事のように言ってるな。

「結局、その戦は本当はどうやって終わったんだ?まさかタルモさんの息子を犠牲にしたわけじゃないんだろ」

「………」

 アキラはその質問には沈黙で答えた。

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