第26話

「夜になったらあんなでっかいミミズみたいな奴がウロウロするんだろ?そっちの方が危険じゃないか」

「そんな時に寝てる方が危ないよ。昼間は暑くてドワーフだって地表になんて出てこないから、日陰さえ見つかればゆっくり寝ていられるさ」

 なんだかんだ言っても十年もこの地に住んでいる奴はよく知ってる。

「ところで君はどこに行くんだい?」

 アキラは荷物にぶら下げてあるランタンみたいなもののスイッチをひねって灯りを点ける。その灯りで俺の顔を照らして訊ねてくる。

「君には関係ないだろう」

 俺に表情があればきっと仏頂面という感じの顔になっていただろう。

「……まあいいさ。途中まで一緒に行こう。君と一緒なら心強いからね」

 ニヤニヤ笑いながら先へ歩みをすすめる。

 正直、あいつがなにを考えているか分からない。さっきは俺を助けてくれたが、それも油断を誘う手かもしれない。なにしろ今は剣を持っているんだ。あの巨大ミミズを一発で仕留めるほどの強力な武器を。

 俺があいつをここに送りこんだ張本人だと確証を持った途端に殺しに来るかもしれない。ミミズくらいなら大したことはない。手こずるかもしれないが、俺は相手の魂を異世界に送り込む事ができる。

 ……もしかしたら、またアキラを別の異世界に送らなくてはいけないのかもしれない。


 結局、夜通しアキラと共に歩き続けた。

 向かって左側から太陽が昇ってくるのを確認すると、アキラは周囲を見渡して野営できるような岩陰を見つけた。その影に腰を下ろし荷物の中から水筒の水と少しのよく分からない食べ物を口にしてから頭に布切れを被って横になった。

「太陽が動いて日が差し込んできたら教えてくれ。別の日陰に移動するから……」

 そう言い終わらないうちに高いびきをかきだした。

 眠れるやつは羨ましい。これから夜になるまでの数時間、暇をもてあますのか。

 ……考えてみたら、アキラと行動を共にすることはないんだ。こいつは昼間は歩けないかもしれないが俺には関係ない。こいつを置いて先に進んでも構わないはずだ。

 俺は先に進むために立ち上がった。別に行くあてがあるわけじゃないが、このまま一緒にいるのは危険な気がする。

 歩き出す前にふと眠っているアキラの顔を見る。

 ……こいつ本当にリオンさんのためにこの砂漠を一人で越える気なのか?結婚して子どもが二人もいるが、俺たちのいた世界ではまだ半人前の年齢のはずだ。そんなやつがこの見知らぬ世界に突如として送り込まれた。周囲の人の助けがあったとしても生きていくのは並大抵のことじゃなかったはずだ。

 俺にはこいつを異世界ここに送りこんだ責任があるんじゃないか。殺されるのは勘弁だが、せめて彼がこの世界でこれからも幸福に生きていく手助けくらいはしなくては行けないんじゃないか……。


 太陽が西と思われる方角に沈みかけた時、アキラのいびきがやんだ。どうやら目を覚ましたようだ。

「………なんだ、日陰になってくれたのか。……ありがとう」

「礼を言われるほどのことじゃない」

 俺は自分の体でアキラに差し込む日射しから遮るように座り直していた。彼はニコリと笑いながら荷物の中からまた食べ物を取り出した。

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