第25話

「灯りを消すんだ!早く!!」

 闇の中から叫び声が聞こえた。俺は言われるがままにヘッドライトの灯りを消す。さらなる暗闇が俺の周囲を取り囲む。こんなに暗かったらいつどこから攻撃されてくるか分からないじゃないか。

 ズズズズズズズズッ……。

 砂地を這いずり回る音だけが聞こえてくる。右に移動したのか、それとも左か?さっぱり分からない。

 ふいに俺の右足を叩く感触があった。そちらに頭を向けるが、やはり何も見えない。

「ジッとしてて。砂漠のミミズヴュステヴルムは灯りに反応するから、暗闇の方がかえって有利なんだ」

 聞き覚えのある声が俺に向かって語りかけてくる。

 俺が言葉を返そうとする前に彼は、俺の足元から離れていった。ザザッという足音が、それを証明してくれる。

 彼の足音も巨大ミミズの這う音も聞こえなくなった。

 実際は一分ほどの静寂だったと思うが、体感的には十分以上も時が止まったように感じた。突如、俺の前方に火花がバチッと散ったかと思うと、ミミズの這う音も聞こえてきた。

 さっきまでのゆったりとした音ではなく、迷いなく獲物を捕らえようとする音だ。

 ザザーッッッ!

 俺ならともかく、あんな大きなミミズにまともにぶち当たったら簡単に潰されてしまう。ここは俺のライトを点けて、ミミズの注意をこちらに向けるべきか?

 そう考えた時にはケリが付いていた。

 ギィィィィィィィィィィィィィッッッ……。

 断末魔の声ともガラスを引っ掻いたような音ともとれるような大きくて不快な音が闇の中に響き渡る。

 その音が止むと、ドサッと砂地に何かが倒れ込む音が聞こえた。

「もうライトを点けてもいいよ」

 その声に従って、俺はヘッドライトの灯りをともす。

 灯りの先には、見覚えのある黒髪に日に焼けた漆黒の肌の男がアクラサスの剣を手に持ったまま、こちらに笑顔を向けていた。

「どうして君がここにいるんだ?」

 俺の疑問にアキラは

「たまたまさ」

 と、答えながら剣を腰に挿してこちらに歩いてくる。

「僕の行こうとしている先に君がいただけだよ」

 アキラはそう言いながら、いつのまにか俺の足元に置かれていた麻袋に入っている荷物を背中に担いだ。

「行こうとしてるって……どこに行く気なんだ?……リオンさんや子どもたちはどうするんだ?」

 俺の矢継ぎ早の質問ににこにこしながら

「だってこの向こうだからね、医者のいる町は。僕以外にそこまで行くほど暇なやつがいないんだ。なにせ、住む場所もぶっ壊れちゃったから、みんな屋敷の修繕に忙しいんだ」

 俺を置いて先へ歩いて行く。

「忙しいのは君も一緒だろう」

 怒る俺をよそに彼は先へ歩き出す。

「君に断られたからね。僕が行かなきゃリオンを助けられないだろう」

 こちらの罪悪感をチクリと突いてきやがる。

「……その町までどれくらいかかるんだ?」

「トルマに乗って……三日くらいかな。歩いてだとどれくらいになるか見当もつかないや」

「だったらなんで家畜を連れてきてないんだよ」

「だって、修繕に使ってるじゃないか。……まあ、昼間は休んで夜に歩けば、そのうち着くだろう」

 いやに気楽だ。

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