第23話

 湖から町を突き抜けるようにまっすぐ歩く。湖の反対側が広大な砂漠になってる。そこをあてどもなく歩こう。

 町を歩いても人々の好奇の視線は感じられなくなった。そのはずで帰ってきた男たちはドワーフに壊された屋敷を再建するために右往左往している。俺のことなどかまってる余裕などないのだ。

 それにしても彼らは自分たちが騙されたことをどう思ってるんだろうか?忙しくたち働いてる彼らをつかまえて問い質したいが、それどころではないみたいだ。

 底が滑る荷台を駆使して屋敷の使えそうにない廃材を運び出してる。

 摩擦が少なくなって、よく滑るとはいってもあれだけの量の廃材を積んで動かすのはかなり骨が折れる作業みたいだ。牽いてる人や家畜もヒイヒイ言ってる。車輪が発明されていないというだけでずいぶん不便だと思う。

 二トントラックの俺が手伝っても十往復は軽くかかりそうだ。俺はコンテナ車だから廃材も小さく切らないと入らないから、かえって時間がかかるかもしれない。

 ……そう考えて、ハッと我に返る。何言ってやがる。どうして俺が手伝わなくちゃいけないんだ。俺は被害者だ。本来ならまったくかかわり合いを持たない部外者ですらある。

 だけど彼らも騙された被害者であることには変わりはないんだよな……。

 いやいや、それは向こうの問題だ。いつまでもここにいたら感情に任せてしまいそうだ。俺は再び歩き出した。


 やっと町の反対側に出た。俺から見て右側に太陽が沈みかかっていて夕焼けの光が目の前の砂漠を赤く照らしだしてる。この世界ではあっちが西になるのか?

 北側に見える地平線の向こうは何も見えない。ただ広大な岩と砂の世界。慣れない二本の足で歩いてどれくらいでここを抜けられるのだろうか?

 まあ、時間を気にする必要はないんだからと砂漠へ一歩踏み出した。

 砂の地面に鉄の足が沈み込む。なかなかに歩きづらい。ただでさえ二足歩行が難しいのに。こんなところをトラックになったとしても走破できるとは思えないんだが……。


 かれこれ一時間くらいは歩いただろうか。あれからすぐに日は沈み、とっぷりと闇が周囲を覆っている。背後を振り返るといくつかの大岩の向こうに町の灯りが煌々と照らし出されているのが見える。ずいぶん遠くまで来た気がしたがまだこんなものか。歩くというのは本当にまどろっこしい。

 歩きながら空を見上げても星が見えない。もうこれくらい暗くなれば東京だって月だけじゃなくて星がちらほら見えるものだが。もしかしてこの世界の宇宙は太陽とこの星しかないんじゃないのか?

 とにかくいくら眠る必要がないからと言ってもこんな真っ暗闇の中を歩き続けるのは難しい。どこかで日が昇るまで休んだほうがいいかもしれない。俺は周囲を見回して休めそうな場所を探そうとするが、そもそも見えないので探しようがない。

 こんな時、トラックだったらヘッドライトを点けることができるのだが……。そう思った瞬間、目の前に光が照らし出された。

 俺の胸から灯りが照射されたのだ。まさかこんなところにヘッドライトが付いていたなんて気がつかなかった。しかも、自分の意志で灯りを点けることができた。

 ためしに消してみる。……フッ。灯りが消えてまた元の暗闇に戻る。

 点ける。目の前に砂地が現れた。

 おお!今まではドライバーにコントロールされていた俺の機能が自分自身の意志で使うことができるなんて、ちょっと感動してしまう。

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