第21話
結局、一晩過ごした湖の畔に帰ってきた。他に行くあてがないし、なによりここならゆっくりこれからについて考えることができると思ったからだ。
どうして俺はこんなところに来たんだろう?いや、そもそも異世界に来ることに意味なんてあるのか?アキラをはじめとした、たくさんの人たちはなぜ異世界に送られなくては行けなかったのか?神様の気まぐれで片付けるには大掛かりすぎるだろう。
「やっぱりここにいたんだ」
声のした方を向くとニーナが一人、歩いてきた。
「どうしたんだ?あっちはいいのかい」
俺は座ったまま彼女に声をかける。ニーナは手を振りながら
「いいの、いいの。今晩はあいつらはごはん抜きで。まあ、もっとも屋敷が潰れているから作りたくても作れないんだけどね」
笑って答えた。
「ひどい目にあったね。ごめんね」
彼女の謝罪の言葉を否定する。
「いや、君の方こそひどい目にあったじゃないか。お父さんを誘拐犯扱いされたり、ドワーフに襲われかけたり」
「それはわたしが予想より早く帰っちゃったせいだけどね。アキラたちはわたしが用事を済ませて帰ってくるまでに事が終わると思ってたみたい」
彼女は俺に相対するように座る。膝を抱え込んで座っていた俺は彼女の顔が見えるように少し足を開く。
………沈黙が長く続く。お互いなにを話せば良いのか分からないから黙っているしかない。いったい彼女はなにをしにここに来たのだろう?
「……ねえ、これからどうするつもりなの?」
彼女の方から思い切ったように声がかけられた。
「分かんないよ。……ここにいつまでもいるつもりもないけど」
俺がそう言うとニーナは寂しそうに、
「……ねえ、アキラの頼みを聞いてあげてくれないかな。……あいつらがやったことは明らかにやりすぎだし、そのことについては必ず謝らせるから」
訴えてくる。
「……ニーナはアキラのことが好きなんだな」
そう言うと彼女は顔を真っ赤にして
「……なんでそうなるのよ!?そんなんじゃないわよ!!……わたしは幼なじみとしてね。……そう、わたしは使用人の娘だけどリオンは分け隔てなく接してくれたし……そうよ!リオンが好きだからね、わたしは。リオンだけじゃなくてタケルやトピだって可愛いと思ってるし。……なにもアキラのためにやってるわけじゃないんだから」
身振り手振りを駆使して 全力で否定してくる。
もうここまでくればバカでも分かる。全力で肯定しているのも同じだ。俺に表情があればきっとニヤニヤしていただろう。
「……君はアキラたちが俺になにをさせようとしているのか知っているのか?」
なおも「アキラが好き」を全力否定している彼女を遮って質問する。ニーナは腕の振りを止めて首を振ってその質問を否定する。
「聞いてないよ。……でもね、アキラがあいつ自身のためにあなたを利用しようとしてるんじゃないのは分かるわ。あいつはそういう奴じゃないし。
……一人ぼっちでこの世界にやってきた時、夜中になるとね、ずっと泣いてたのよ。前の世界ではお母さんやお父さんや兄弟がいたらしいの。でも、自分が寂しいから泣いてたんじゃないの。あいつ、お母さんたちが自分がいなくなって辛いだろうなってそれを想像して泣いてたの。戻ってあげられない自分の無力さに泣いてたの」
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