第20話

「何に合格したのかは分からないが、君たちの要求に応える気はないよ」

 俺はそう言うと踵を返して壊した門に向かう。

 バカバカしい。こんな手の込んだ危険なことをなんでされなくちゃいけないんだ。突然現れた俺が何者で信頼できるかどうか分からないのは理解できる。だがなぜこんな危険なことをするんだ?下手したらアキラたちもドワーフに潰されていたかもしれない。俺が負けたらニーナたち町の女性たちも食われていたかもしれないんだ。

 これから先どうするかは考えていない。ただ一刻も早くこの胸くそ悪い場所から出て行きたい。あとはなるようになれだ。

「待ってください、鉄の人」

 去っていこうとする俺の背後で呼び止める声がする。

「あなたが憤る気持ちは分かります。どのようにおわびしても仕方がないと思います。ですがもう一度、アキラの話を聞いていただきたいのです」

 振り返ると先程までアキラに抱きかかえられていたリオンがまだ青白い顔のまま、支えなしで立っている。さっきまで泣いていたトピがいつのまにか彼女の足元で心配そうに見上げている。

 リオンはそのトピの頭を優しく撫でるとアキラの方を向いて諌める。

「アキラ、まずはあなたとお父様が謝るのが先よ」

「どうして?味方になるかどうか、力がどれくらいあるか知ることは必要じゃないか?」

「それは私たちの都合でしょう。鉄の人の気持ちを考えたらあのような“試し”はするべきではなかったわ」

 アキラはその言葉に心底驚いたようだった。

「……気持ちって、ロボットだよ。コンピューターにそんな感情があるわけないじゃないか」

「……?」

 リオンは彼の言葉が理解できていない。この世界にロボットやコンピューターがないのだから無理もない。

 俺は自分に感情があることを知っている。それは俺がコンピューターで動くロボットじゃなく本当は「意識」をもってしまったトラックだからだ。それだって変な話だが。

「リオンさん、お気持ちはうれしいですが、俺はたとえ謝られても彼らを助けるつもりはないです。敵になるつもりはありませんが、味方になるつもりもないです」

 リオンに向かって頭を下げるとアキラには一瞥もくれずに俺はまた歩き出す。

「君はなにかの使命があってここに来たんじゃないのか?」

 アキラが俺の背中に向かって声をかけている。無視する。

「僕は昨日の朝、夢で見たんだ。僕らにとって必要なことがあの丘の上で起こるって。実際に行ってみたらそこに君がいた。これで僕たちは助かるって本当に思った」

 ひたすら喋っているが俺は聞く耳を持っていなかった。

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