第17話

 実際、こちらを見て、首をかしげ、またあらぬ方を見て歩き回る。

「……なに、やってるんだ?」

 俺の問いかけを無視してる。あきらかに興味をなくしてるみたいだ。

「……あいつ、なにしてるんだ?」

 足下に隠れているニーナにも同じことを訊くが、怖がって要領を得ない。

「オイ、この町の男たちはどこ行ったんだ?」

 やっと喋ったかと思ったら、どういう意味だ?なぜ男たちの居所を知りたがるんだ?

「今、総出で人捜しをしてる。この町には男は誰もいない」

 事実なのでそう言うとドワーフは、何やら肩を振るわせて黙り込んだ。しばらくそうしてたかと思ったら突然、

「逃げたなぁァァァァァァァァァァァァァァァ!?」

 顔を上げて、俺に向かってきた。避けようかと思ったが足下にニーナがいる。俺は奴の方に向かって体当たりをかました。

 体格差はほとんどないが軽い奴の方が吹っ飛んだ。屋敷の跡に倒れ込んだドワーフはすぐさま跳ね上がって立ち上がる。軽いだけでなく俊敏だ。

「お前、強いな。どうやらお前が相手だな」

 何を言ってるか分からない。こっちは別に戦いたいわけじゃない。この体になって一晩経っているがいまだに慣れない。パワーだけでどうなるものでもないだろう。

「待ってくれ。話を聞いてくれ!」

 そんな俺の言葉も虚しく奴はポーンと飛び上がると上空から俺に飛び乗ってきた。上半身を羽交い締めにされ、まともに身動きが取れない。なんとか引きはがそうとするが、そのでかい口で俺の頭をパックリとくわえ込み、両腕両足でがっちりホールドしていやがる。

 しばらくその状態が続いたかと思うと、ふいに奴が飛び降りた。

「お前、食えない」

 ……当たり前だ。と、いうことはこいつ人間を食べるつもりでここに来たのか。男たちが出払っててよかった。

 軽く周囲を見回すと、いつのまにかニーナや女性たちは遠くに逃げている。彼女たちはドワーフの怖ろしさをよく知っているから、とっとと逃げ出したんだろう。

「グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 突然、ドワーフが吠えたかと思ったら俺を飛び越えた。まずい!奴は女たちを狙うつもりか?

 俺は頭上をにある奴の足を右手で握った。奴はバランスを崩してそのまま転倒する。

「邪魔するなァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

 ドワーフはもう一方の足で俺に蹴りを入れる。別に痛くはないがこうも執拗に蹴られ続けてもいられない。このまま時間がすぎれば男たちも戻ってくる。


 ふいに懐かしい感覚がよみがえってきた。ドワーフを持っていた手に力のような……感覚がよみがえってきた。

 もう何年も経験していなかった感覚だ。まさかこの世界に来てまでもこの力を持っていたとは思ってなかった。しかも、なにかが命令してきているわけじゃない、「こいつを異世界に送れ」と。

 俺に「意識」が生まれてはじめて、命令なしにこの力が発動された。


 ドワーフの体が微動だにしなくなった。俺はゆっくり立ちあがりドワーフの足を離す。呆然としている俺の元にニーナが声をかけてくる。

「ロポット?大丈夫?……死んでるの?」

 俺はなんと答えていいのか分からずに黙っていた。死んではいない。ただ魂はこの体にはない。その意味で言えば死んだも同然だ。

 ニーナがおっかなびっくりの体でこちらに近づくと、俺には目もくれずに屋敷跡に座り込んで廃材を掻き分けだした。

「どうしたんだ、ニーナ?」

 ドワーフの体をその場に置いてニーナの側に行く。彼女は俺のことなど無視してなおも残骸を掻き分け続けてる。

「アキラ!リオン!……タケル、トピ!……みんな返事して!!」

 人っ子一人いないはずだった屋敷の残骸に向かって彼女は必死に声をかけて掻き分けてる。

「どうしたの?みんなここにはいないはずだろ?」

 そう言うと彼女は俺を見上げて

「いるの!みんなこの屋敷の中に隠れてたの!……誘拐もされてないし、行方不明にもなってないの」

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