第15話
「ああ!やっぱりここに来てたんだ。取りに行くって言ったじゃない」
俺の背後で聞き覚えのある声がした。振り返って視線を足元に向けると、ニーナが昨夜連れていた家畜を引いて、俺に視線を向けていた。
「まあ、もっともわたしの方がこんな時間まで取りに行かなかったのが悪いんだけどね。お鍋、どこに置いてくれた?」
呆気にとられている俺をよそに彼女は喋り続ける。
「……君、ニーナ……だよね?」
「はあ?なによ、もう忘れたの」
「君、今までどこにいたの?」
俺が問いかけるとニーナはキョトンとした顔で
「昨夜、ヴァルヴィオ様から用事をいい使って、朝早くから隣町のツヴァルフまで行ってたのよ。その帰りに湖まで寄ったんだけどね」
答えてくれる。
「そう言えば帰りにうちの町の男たちがなんか血相をかえて歩いてるのを見たけど、なんかあったの?みんなこっち見ないで声もかけづらい雰囲気だったんだけど……」
「タルモさんがどこに行ったか知らない?」
俺は彼女の言葉を遮ってさらに質問を続ける。
「……父さん?たしかアインサまで行ってるはずよ」
「なにしに?」
「なにしにって……まあ、墓参りっていうか。……ねえ、いったいなにがあったの?」
「町から出たことないタルモさんが、なんでアインサまで墓参りに行くの?」
「父さんが町から出たことないって、そんなわけないじゃん。仕事がないときはしょっちゅう馬に乗って出かけてるわよ。……いい加減、こっちの質問に答えてくれてもいいんじゃない?」
俺は今朝からのことをかいつまんで話した。アキラの子たちが行方不明なこと、それを探しに男たちのほとんどが出払ったこと。ヴァルヴィオたちは実はタルモが二人を拐ったのではないかと疑っていること。今は屋敷には人の気配がないこと。
驚いてはいたが、最初のうちはおとなしく聞いていたニーナがさすがにタルモが疑われていると知ると
「バッカじゃないの!?……ちょっと待ってて。わたし、中に入ってたしかめてくる」
言うが早いか、ニーナは家畜を置いて屋敷の中に飛び込んでいった。
屋敷の中でニーナの叫び声が聞こえる。だが、反応らしいものはかえってきていないみたいだ。しばらくすると屋敷の扉が開いて彼女が出てくると今度は庭の方に走っていった。
庭に向かってから一分ほどして、トボトボと歩いて戻ってきた。彼女は首を振りながら、
「だめ……人っ子一人いない。ヴァルヴィオ様もアキラもリオンも。タケルとトピも見当たらない」
報告してくれた。
「この屋敷には他に人が住んでないの?」
俺がそう訊くと
「……そう言えばわたし以外の使用人にもなにか用事を言い付けていたと思う。何人か朝早くに出かけて行ってたから。でも、なんで?」
頭をかかえる。俺は
「……理由は分からないけど、屋敷を空にして、町から男を追い出さなくちゃいけない理由があるんだ。体の弱いリオンさんまで連れ出さなくちゃいけない理由が」
とだけ答えた。
「どんな理由があるか知らないけど、父さんを誘拐犯にしていいわけないでしょう。もし、男たちが父さんを見つけたらなにをされるかわからないわ」
「それは大丈夫だと思う。タルモさんを疑っているっていうことは俺にだけしか言ってないから」
それにしてもいったいなにをしようとしてるんだ?今、この町は女、子どもしかいない。こんな時に外から……。
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