第12話
ヴァルヴィオは首を振りながら
「何も分からないのだ。あの子たちがこの町から出た形跡もない。もちろん、抜け出そうと思えば誰にも見つからずに出ていく方法はあるだろうが、今は手がかりになりそうな情報は何もないのだ」
苦渋に満ちた顔で答えた。
「その手紙には他にどんなことが書かれているのですか?」
さらに他の男が手をあげて質問をする。なんとかして手がかりがほしいところなのだろう。
「子どもたちをあずかっているということと、先ほどの恨みごとの二行だけだ」
集まった男たちの間からため息がもれる。これでは誘拐した奴らは二人を返すつもりがないことは明らかだ。
「だったらぐずぐずしてられないぞ!とにかく手分けして探しだそう」
「アインサまでの道なりをたどってみよう。運が良ければ追いつけるかもしれない」
「他に行きそうなところはないか?」
「砂漠を超えたか、丘まで上っていったかもしれん」
男たちはそう言うとそれぞれに散らばって探しに出かけた。俺はこの辺りの地理がさっぱり分からないし、何よりこの荷台と鍋を早くニーナに返したい。だからその場から動けないでいた。
「アキラ、君は行かないのか?」
アキラも俺と同じくその場で突っ立っていた。自分の息子たちのことなのに、どうして慌ててないのだろう。
「あなたが『鉄の人』か。屋敷に逗留させることができずに申し訳ない」
ヴァルヴィオが俺のそばまでやってきて声をかける。
「いえ、そんなことより早く俺も捜索の手伝いをしたいんですが……」
俺の言葉に重ねるようにアキラがつぶやいた。
「………手がかりならあるんだ」
男たちが散らばっていなくなったところで、そんなことを言うとは思わなかった。
「どうして、みんながいるときに言わなかったんだ?あれだけの人数がいて手がかりまであったらすぐに子どもたちは見つかるんじゃないのか?」
俺の問いかけにヴァルヴィオが返事をする。
「私たちがまだ気がついていないと犯人に思わせたいのだ。彼らが見当違いのところを探している間は、孫たちは無事でいる公算は高いからな」
「……ってことは正体まで分かってるってことですか?」
俺の言葉にアキラとヴァルヴィオは顔を合わせてため息をついた。そして、
「タルモだよ」
とアキラが告げた。
……タルモ。ニーナの父親でこの屋敷の庭師をやっている男。俺がこの世界にはじめて来た時に出会った最初のこの世界の人間。そう言えばここに来てからタルモもニーナの姿も見ていなかったことに今ごろになって気がついた。あの親子はこの屋敷に住んでいるのだから、真っ先にこの場にいてもおかしくないはずなのに。
「タルモさんだという証拠はあるの?」
ヴァルヴィオがさきほどの手紙を見せてくる。
「まずは筆跡だ。タルモは無学だが字は書ける。ただし、独特の筆跡だから彼の文字だとすぐに分かった」
たしかにその紙に書かれている字はお世辞にも上手いとは言えない。なんと書いてあるかは分からないが。ヴァルヴィオが集まっていたみんなに手紙を見せなかったのはそのためか。町の人ならすぐにタルモの字だと分かってしまうだろうから。
「それに孫たちはタルモになついている。先ほどは二人が勝手に屋敷から出ていったと説明したが、私らはタルモが二人を連れ出したのではないかと考えている。彼なら二人とも怪しまずに連れて行くことは可能だろう」
俺たちの世界でも子どもに対する犯罪の半数以上は顔見知りだとラジオで言っていた。この世界でも変わらないようだ。
「それに……」とアキラが言いにくそうに
「タルモの小屋から書き損じの紙が見つかった。昨夜ニーナが帰ったらタルモもいないことに気がついて、僕に知らせてきた。それで家探しをして見つけた」
懐からくしゃくしゃに丸まった紙を出してきた。
「ニーナさんは?」
「……今は屋敷の一室に閉じ込めてある。あの子が今回のことに加担しているとは思っていないが、それでも犯人と思われるものの身内だからな」
俺の問いかけにヴァルヴィオが答える。昨夜、リオンを連れて帰ったらこんなことになっていたなんて、今のニーナの気持ちを思うといたたまれない。
「だけど、犯人と当たりをつけてもどこにいるか分からないのは変わりがないんだ。まだ町から出ていないとは思うんだけど」
「どうして、そう思うんだ?」
アキラの言葉に疑問を持ったので訊いてみる。
「彼はこの町から出たことがほとんどない。せいぜい、湖の向こうの丘に行くことがあるくらいだ。砂漠の方や他の町には一度も足を向けたことはないはずだ。十年前の戦の時も彼の息子が行ったが彼は行っていない」
ヴァルヴィオが代わりに答える。
……息子?そんなのがいたんだ。彼の子はニーナひとりだと勝手に思い込んでいた。
「その息子さんはどうしているんですか?」
まさかと思うが、その息子もこの犯罪に加担しているのか?
「彼は先の戦で命を落としている」
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