第7話
「車輪が必要ないんだよ」
アキラは荷台から空の鍋を下ろすとそのまま荷台を家畜から外してひっくり返してみせた。
「ほら、この荷台の底を触ってみてよ」
俺は言われた通り指先で底の部分を触ってみた。
「そのまま指を滑らせてみて」
指を荷台の端から端までスーッと滑らせてみる。かなり軽やかに滑っていく。
「油か何かを塗っているのか?」
俺が問いかけるとアキラは首を横に振って
「そうじゃなくて、そういう材質なんだ。マルヤニの木を板に加工すると一部分だけ極端に摩擦が少なくなる個所ができるんだ。それを底にすれば荷物を乗せても滑っていくんだ」
「そんなことも知らないんだ。やっぱりよその世界からやってきたんだね」
湖の水を空の鍋に汲んだニーナがそう言いながら、料理の入った鍋を水の入った鍋に浸ける。
「はい、じゃあよろしく」
ニーナが片手をあげてアキラを促す。彼は腰に差した棒を抜くと銀色の部分を水に浸けた。しばらくすると水から泡がポツポツとあがってきて、やがて沸騰し始めた。
「こんなもんかな」
そう言うとアキラは棒を鍋から引き抜いた。棒が抜けても鍋はグラグラと湯気を立てている。そして料理の入った鍋からも湯気が立ち上りはじめた。
「その棒はそんなに熱いのかい?」
見た感じは熱を持っているように見えない。俺はその棒にも触ろうと指を伸ばす。
「触っちゃダメだ!」
アキラは棒を俺の指から遠ざける。
「これに触ったら君の指が粉々に砕けちゃうよ」
そう言うと彼は足元に転がっている少し大きな石に棒の端っこをチョンと付けた。すると、バキッという音とともに石が粉々に砕け散った。
「アクラサスの剣の先に触れた物は分子レベルで振動させて破壊してしまうんだ。この鍋の水も分子を振動させてお湯を沸かすことができるんだよ」
そのアクラサスの剣を鞘に収めながら説明してくれた。
「電子レンジみたいなものなんだな。……だったらその鞘はどうして壊れないんだい?」
「この鞘の内側にはドワーフの革が張り付けてある。なぜかこの剣はドワーフの皮膚には作用しないんだ」
「ドワーフって?」
たしか丘の上でもその言葉を聞いた気がする。
「このあたりにあらわれる悪戯好きの妖精さ」
「そんな可愛らしいもんじゃないわ」アキラの言葉にニーナが反発する。「せっかく作った作物は荒らすし砂漠を旅する人を襲って金品まで奪うのよ。自分たちはお金なんか使わないのに。わたしたちが使っているのを知っているから奪わないと気がすまないのよ」
よほど酷い目にあったのか容赦がない。
「どうでもいいけどせっかく持ってきたのに食べないの?」
「あ、俺は食べられないから」
そう言うとニーナは途端に嫌な顔をする。
「……だったら最初からそう言ってよ!無駄になっちゃうじゃない」
そうは言ってもまさか料理を持ってくるなんて思ってなかったからな。
「僕は食べるよ。よそってくれ」
「自分でやりなさい。わたしは奥さんでも召使いでもないんだから」
ニーナはアキラが差し出したお椀を拒絶してお玉(?)を代わりに差し出す。アキラはニヤニヤしながらお椀に料理をよそう。
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