第6話

 結局、屋敷の中に入れない俺は湖の畔の原っぱまで行くことになった。

 そこに食事などを持ってきて話しをしようということになった。

 ……のだが、俺はそもそも食べ物は食べられない。元々、トラックなのだから。……だとしたら俺の食事は軽油になるのか?そんなものがこの世界にあるのか?

 まあ、今は腹が減っているとかガス欠になりそうとかはないからいいが。

「ごめんね、ロボット」

 道中、アキラが謝る。そんなことはどうでもいい。

「君はこの世界にやってきてこれまでどうやって生きてきたんだ?」

 いろいろと訊きたいことはあるが要約すればこれが一番訊きたいことだ。

「うーん、さすがに一言じゃ説明しにくいな」

 アキラは腕を組んで考えこむ。それはそうだろう。俺も一言で説明してほしいとは思っていない。

「前の世界で僕は交通事故にあったんだ」

 湖に着いてからアキラが語り出した言葉にギクリとする。まさにそれをしでかした張本人だからだ。だけど、彼はそのことを知らない。

「今考えると道路でサッカーボールを蹴っていた僕が悪かったんだけど……。それでも上手にドリブルできてたんだよ。だけど、突然ボールが俺が蹴ったのと違う方向に飛んでいったんだ。

「ボールを追いかけて行ったらそこに大きなトラックが走ってきてたんだ。あとは何がなんだか分からなかった。頭の中が真っ黒になったかと思うと、しばらくしたらあの丘の上に横になっていたんだ。……あ、サッカーボールとかトラックとか意味わかる?」

 俺はコクリと頷く。

「そうか、君のいた世界にも同じようなものがあるんだね。もしかしたらやっぱり同じ世界なのかもしれないね。

「目が覚めた時は夢なのかと思ったよ。それにしてはえらくリアルな夢だなって思った。とにかくお腹も空いていたし丘の下には町もあるから、とりあえず下りることにしたよ。それで着いたのが一番手近な『アインサ』の町だったんだけど、あそこの部族の人たちはよそ者に冷たいんだよ。まるで存在していないかのように無視されたね。

「早くこの夢が覚めないかなってずっと思ってほっぺたとかつねってみたけど、全然目覚める気配がなくて。ああ、夢じゃないんだってやっとわかった。もうお母さんやお父さん、友だちにも会えないんだと思ったら無性に悲しくなってね。その場で泣いたんだけど誰も相手してくれなかったね」

 やっぱり彼も泣いたんだな。俺に優しくしてくれているのもその時の経験があるからなんだろう。

「その時、声をかけてくれたのがさっきまで一緒にいたタルモ。彼は俺を『ドライオン』の自分の家に連れてきてくれてご飯を食べさせてくれたんだ。

「彼の家はさっきの領主の屋敷の中の離れにあって元々はそこの庭師なんだ。それで僕は自分のことを説明したんだけど全然分かってくれなくて……今考えれば当たり前なんだけどね。結局、そのまま居つくことになったんだ。

「領主のヴァルヴィオ様も優しい方で僕が誰なのか他の町まで通達して調べてくれたんだけど、まあ無理だったね。僕も異世界からやってきたなんて思ってもみなかったから……。

「僕はタルモの子のニーナとヴァルヴィオ様の子のリオンと遊んだりして過ごしていたんだけど、ある日……」

 アキラが話を止めてあらぬかたを見る。その先には四本足の動物を引いてくるニーナがいた。

「ちょっと、急に場所を変更しないでよ。料理ができて食堂にもっていこうと思ったら湖に持っていけって言われて、面倒って言ったらありゃしないわ」

 やってきたニーナが悪態をつきながら家畜が牽いてきた荷台の上から大鍋を下ろす。

 驚いた。荷台と言ったがどうみてもただの厚い板切れだ。その板にくくりつけて家畜にズルズルと牽かせている。

「ねえ、どうして車輪の着いた荷車を使わないんだい?」

 俺の言葉にニーナはキョトンとした顔で俺を見上げる。アキラは諦めきったような顔をして俺たち二人を交互に見やっている。

「……車輪ってなに?」

 車輪を知らないのか?町中を見た時にうすうす気がついていたけどやっぱりこの世界には“車”が存在しないんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る