第4話
泣きやんだ俺は困ってしまった。このアキラという青年に事実を伝えるべきなのだろうか?
彼はいったいこの世界でどうやって生きてきたのか?もし、とてつもない苦労をしていたのなら俺がこの世界に送り込んだことを知ってどう思うだろうか?
「どうしたんたい?……えっと、ロボット……くん」
アキラが心配そうに俺に近づいて声をかけてくる。
……ロボット。……なるほど、確かに俺の姿はロボットそのものだ。だったらそれが名前でもいいじゃないか。
「なんでもない。ちょっと調子が悪くなっただけだ。もう心配ない」
そうは言ってもいきなり叫んで崩折れたでかい図体のロボットだ。心配にならない方がどうかしてる。タルモと呼ばれていた男はなおも俺に懐疑的な目を向けている。なにかあったら例の棒を使ってアキラを守るつもりでいるらしい。
「君はこの世界に来たばかりなのか?僕はもうずっと前にやって来たんだ。同じ異世界から来たもの同士、仲良くやっていこう」
アキラはそう言って俺に向けて手を差し出した。だが俺はその手を握らない。
「俺がここにやってきたのは使命を受けたからだ。悪いが君たちに構っている暇はない」
立ち上がった俺はそう言って彼らの脇を抜けて丘のふもとに向かって下りていく。だがアキラは俺のあとを追ってきた。……お前、上ってきたばっかりだろう。
「使命っていったいなんだい?僕はここにどうして来たのか分からなかったんだ。君はどうやってそれを知ったの?」
そんなこと言われても、しょせん口から出任せだ。そんなものありはしない。いや、あるのかもしれないが知らない。
「それは君に言うわけにはいかない。……君は今はここに来た理由を知っているのか?」
ふと湧いた疑問をぶつけてみる。俺はアキラや他の人たちがなぜ異世界に行かなくては行けなかったのかまったく知らない。本当に理由があったのか。神様の気まぐれなのか。
「まあね。……聞きたかったら僕と一緒に来ないかい。話して聞かせてあげるよ」
どうしよう。たしかに訊いてみたいがこのまま彼らと一緒にいたらなにかの拍子に俺が送ったことがバレてしまうかもしれない。
「君は丘の上に行こうとしていたんじゃないのか」
「いや、丘に用事があったわけじゃないんだ。……ちょっとケンカをしてしまってね」
アキラは手を振りながら恥ずかしそうに言い訳をする。タルモは戻ろうとするアキラに安心したのかホッとした表情をみせる。
俺は少し考えたが、最後には好奇心に負けた。なぜアキラをこの世界に差遣したのか。その理由をどうしても知りたい。俺はアキラたちについていくことに決めた。
小一時間ほど歩いて三つの湖の先にある三つの町のうちの一つ、東寄りの町「ドライオン」に着いた。
西寄りの「アインサ」南寄りの「ツブァルフ」そして東の「ドライオン」。それぞれ別々の部族がこの湖に集ってそれぞれの集落をつくり、そして町にまで発展させたそうだ。それぞれの町の代表者が集まって合議制でこのオアシスを治めているらしい。
アキラはそのうちの「ドライオン」で暮らしている。
正直、来たことを後悔している。俺の姿を目にした人たちが一様に驚いている。当たり前だ。こんなロボットなんぞ見たこともないだろう。俺だってない。しかも、町の中の建物も俺が入れる大きさのものは無さそうだ。
「やっぱりやめとくよ。どうも場違いみたいだ」
俺はそう言って立ち去ろうとするが、アキラが俺の脚をつかんで引き止める。
「気にするなよ。僕だってこの世界じゃ場違いなんだから。それでも十年はうまくやってきたつもりだよ」
「いや、君は普通の人間じゃないか。俺みたいにでかくないだろう」
俺の場違い感はアキラとは違う。たしかに彼は町の人たちとは人種が違う。ここの人たちはこれだけ日差しが強いのに肌が焼けていない。アキラの肌は小麦色に焼けている。太っている人も見当たらないせいか一様に弱々しい感じがする。
だが、それでも同じ人間だから決して場違いだとは思わない。いくら町の中を見わたしても俺のようなロボットも、もちろんトラックも見当たらない。
そういえばトラックはおろか自動車や車輪のついてるものすら見ていない。流通とかはどうなっているのだろう?
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