試行錯誤その三改。


 どうもこんにちは。木元です。予約投稿でござい。


 前回のパターンを、太刀川視点から真冬視点に切り替えたものを作ってみました。文字数は増えまして、2,151文字になりました。丸ごと貼ってみますね。


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 放課後。私は時間を潰す為に、一人図書室へやって来た。


 読みたい本は、別に無い。


 屋上に忍び込んで煙草をふかすより、健全だなと思っただけ。


 そもそも私は十七で、まだ未成年だ。


 図書室に入って左手にある、今月の新書やおすすめコーナーの先で並ぶ本棚の合間をふらっと行くと、適当に目に付いた一冊を引き抜く。本棚で仕切られた奥のスペースには、中央に置かれた本棚に仕切られるように左右へ座席が設けられていて、教室みたいに窓際へ並べられた、右側の席に座った。


 そこから見えるグラウンドを見下ろすと、雪で真っ白になっている。


 自分のようだなと感じて、ぼんやりと見入った。


 肌も、へそ辺りまで伸ばした髪も真っ白くて、瞳は灰色。どこの地域でも珍しがられるこの外見は、どうしようもなく私をミステリアスに見せるらしい。


 表紙もよく見ないまま、本を開く。タイトルは、『約束の守り方』。ジャンルもよく分からないままだけれど、何でもいいやと読み始めた。


 ――すぐに人の気配がして、目で文字を追いながら、足音に気を向ける。


 足音は何かを探るように近付いて来ると、あるタイミングで歩幅を狭めた。そして私の背後へゆっくりと迂回して来ると、こちらを覗き込むように口を開く。


「よー」


 私はページを捲りながら、じっと声の主を仰いだ。百七十センチ強ぐらいの身長の、黒いショートヘアの男子生徒と目が合う。


 ……太刀川たちかわ択真たくま


 私と同じ、二年六組の男の子。


 今年の四月にこの町へやって来た転校生で、こうして放課後になると図書室にやって来ては、郷土資料を漁っている変な人。背が高いのとその涼やかな顔立ちで、クラスの女の子達はカッコいいと噂をしている。


 そうかな。チャラいけど。


 何やら薄い笑みを浮かべる彼の左耳で光る、シンプルなシルバーのイヤーカフが目に付いた。


 私が黙っていると、彼は笑みを浮かべたまま肩を落とし、前の席に座った。すぐに身体を捻って足を組むと、背凭せもたれに右腕を置いて、こちらに向き直って来る。


「なーにしてんだよこんな所で」


 本へ視線を戻していた私は表紙を見せるように、読んでいた本をとん、と立てた。何をしているのかは「読書」で、どんな本を読んでいるのかは表紙で分かる。


「付き合わなかったんだ」


 倒した本を読みながら、彼へ言った。


「ん?」


 短く聞き返される。


美智みさとと」


 私は視線を本へ落としたまま、右手で髪を耳にかけた。


 鎧みたいに、六つのシルバーピアスで装飾された耳が露わになる。


「あー」


 彼は意味の無い声を上げながら、天井を仰ぐと言葉を探した。


 私が余り耳を出さないから、ピアスまみれなのに気を取られそうになったのだろう。


「知ってたんだ? その話」

「相談受けてたから。摩耶まやと一緒に」


 摩耶と美智みさととは、私や彼と同じ二年六組の生徒で、私はよく、摩耶と美智の三人で一緒にいる。


 私と摩耶は一ヵ月程前から美智に、太刀川くんに告白をしようと思っているのだが、どうすれば上手くいくだろうかと相談をされていたのだ。


 「どうも何も、当たって砕けろだよ」と、彼氏持ちとしてはいまいち参考にならない言葉で摩耶が背中を押した事により、美智の告白の決行日が今日と決まったと知っていた私は、その結果を丁度いいから、今ここにいる彼から聞きたくなったという訳である。


 美智が教室に引き返して来たら、そこで待っている摩耶と合流して、いつも通り三人で帰る約束をしている。美智の告白が終わるまで暇なので、私は摩耶を残し、図書室にやって来た。来たのだけれど思ったより、それはあっさりと終えたらしい。


「何でフッたって分かんの? 俺何も言ってないのに」


 面白そうに、彼は私に尋ねて来た。


 何が面白いんだろう。


「オーケーなら、そのまま解散はしないだろうと思って」

「つまり相川は、そのまま喫茶店にでも入りたいと思うタイプって事か」

「今は美智の話」


 私は右手を下ろして言う。


 拍子に白髪はくはつが垂れて、耳を隠した。


「何て言って断ったの?」


 そういう軽薄な所が嫌いだと、じっと彼を見据える。


 ここは友人として、きっちりと確かめておきたいので譲れない。美智が自分が振られた理由の確認を、取れているのかも分からないし。


 彼は含みのある笑み浮かべると、ゆったりと足を組み替えた。 

 

「別に? 転校して来た時の自己紹介でも言ったけれど、家庭の事情でまたすぐに引っ越す事になるかもしれないから、付き合っても続かないでしょって」

「どこかに彼女がいるからとか、美智に興味が無いからとかじゃないんだ」

「彼女はいないし、美智ちゃんは可愛いって思ってるよ。ただウチが特殊だからなあーって」

「お家が特殊じゃなかったら、付き合ってたの?」

「かもねえー」


 何それ。


「チャラいよね。太刀川たちかわ君」

「まさか。俺超誠実だぜ? まあこればっかりは付き合ってみないとっかんないかなー」

「じゃあ付き合う?」


 気付けばとっくに本は閉じていて、揃えた両手は、行儀よく本の手前に置いていた。


 やっぱり屋上に行けばよかった。


 猛烈に一服したくなってきた気分を堪えながら、彼を見据える。


「デートは校内? 喫茶店? それともお互いの家? 私はどこでもいいけれど。付き合えば太刀川君が、いい加減な人じゃないって、分かるんでしょ? ――太刀川君のその言葉が、本当なら」



 どうせ断ってくるに決まってるけれど、なら付き合おうなんて返って来るなら、殺せばいい。



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 どうでしょ。個人的には前回の太刀川視点が、今の所一番いいかなあと思ってます。真冬はあんまり詳細に心情を露わにされない方が、作者としては書きやすいって都合が理由なんですけどね。


 硬さを落とす為にもキャラに親しみを持って貰うには、一つの言動ごとに簡単な説明的心理描写が必要かなあと考えてやってみたんですけれど……。どうでしたかね。普段通りの硬い書き方でなら真冬視点でも平気なんですけれど、読みやすさを意識すると途端に書き辛く。まあこんな感じになりました。


 そろそろどのパターンで挑むか、絞っていこうかなと思ってます。



 では今回は、この辺で!



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