試行錯誤その三。


 こんにちは。木元です。予約投稿でござい。


 もう一パターン作ってみました。ラノベ層である十代の読者をより意識しつつ、一人称視点のまま、語り手を真冬からもう一人、主人公格の男の子に変えてみたパターンです。真冬のまんまでもいいんですけれど、まあ一応。試さない理由もありませんし。文字数は、2,009文字です。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 放課後になると図書室に向かい、郷土資料を漁るのが日課になっている。まあ俺は転校生なのでこの町には何の思い出も無いんだけれど、仕事だから仕方無い。


「あーさぶ」


 吐いた息が、白く消えた。


 冷え切った廊下を身を縮こませながら足早に行き、からからと図書室の戸を開ける。早く室内に置かれた、ストーブの前であったまりたい。


「――お」


 眠くなるような温かい空気が満ちた図書室に、大股で入った時だった。入って左手にある、今月の新書やおすすめコーナーの先で並ぶ本棚の合間に、ふっと白い影が消えたのは。


 ……相川真冬。


 俺と同じ二年六組の、色素の少ない女子。


 肌はモノクロ写真みたいに真っ白で、本来は黒だったのだろう瞳も灰色で、へそ辺りまで伸ばした髪も艶の無い真っ白の、儚い顔立ちの奴。無口で表情も乏しくて、いかにもミステリアスって感じの、所謂いわゆる高嶺の花の美人さんってヤツだ。


「どもーっす」


 俺は図書室に入って、右手にあるカウンターに立つ司書さんに軽く会釈をしながら、相川が消えた方へ向かう。


 すると、本棚に仕切られたスペースの向こうで、教室みたいに窓際へ並べられた席の一つに、ちょこんと相川が掛けていた。俯いて本のページを捲っているので、正面から向かって来る俺には気付いていない。


 俺はつい、にやりとなって歩幅を狭めると、ゆっくりと相川に近付く。迂回するように背後に回ると、上から覗き込むように声をかけた。


「よー」


 相川は、ページを捲ろうとした手を止めずに、猫みたいにじっと俺を仰ぐ。


 ……驚かないんだよなあ。こいつ。


 まあ、美人に見つめられるのは万々歳だが。


 俺は肩を落とすと、相川の前の席に座った。すぐに身体を捻って足を組むと、背凭せもたれに右腕を置き、相川の方を向く。


「なーにしてんだよこんな所で」


 本へ視線を戻していた相川は、表紙を見せるように、読んでいた本を立てた。タイトルは……。『約束の守り方』。何だろう。表紙の色がほんわかしててピンクっぽいから、多分恋愛小説。


「付き合わなかったんだ」


 倒した本を読みながら、ぽつりと相川は言った。


「ん?」


 急な言葉に聞き返す。


美智みさとと」


 相川は視線を本へ落としたまま、右手で髪を耳にかけた。度肝を抜く程、ゴテゴテにシルバーピアスで装飾された耳が露わになる。ぱっと見ただけでも、四つはしていた。


 余り耳を出す仕草はしないので、この意外性を知っているのは、クラスでも何人だろう。俺も左耳にイヤーカフを一つしているが、それでもぎょっとする量だ。


「あー」


 俺は、相川の右耳に気を取られそうになりながら、天井を仰ぐと答えた。


「知ってたんだ? その話」


 つい先程の事である。放課後を迎え、がらんとした校舎の隅に、クラスメートの林田美智みさとちゃんに呼び出されたのだ。付き合ってくれませんかと。残念ながらお断りしたけれど。


「相談受けてたから。摩耶まやと一緒に」


 露わにした耳に手をやったまま、相川は言う。


 摩耶とは、野分のわき摩耶ちゃんだ。同じく俺達のクラスメートで、そう言えば相川、美智みさとちゃん、摩耶ちゃんと、この三人はよく、一緒にいるなと思い出す。


 俺は面白くなって、相川に尋ねた。だってこいつが珍しく、自分から話題を振って来ているのだ。


「何でフッたって分かんの? 俺何も言ってないのに」

「オーケーなら、そのまま解散はしないだろうと思って」

「つまり相川は、そのまま喫茶店にでも入りたいと思うタイプって事か」

「今は美智の話」


 相川は、右手を下ろして言う。


 拍子にさらりと、味の無い白髪が垂れて、耳を隠した。


「何て言って断ったの?」


 掴み所の無い、灰色の目が俺を見据える。


 どうやらここは友人として、きっちりと確かめておきたい部分らしい。


 俺はゆったりと、組んでいた足を組み替えた。 

 

「別に? 転校して来た時の自己紹介でも言ったけれど、家庭の事情でまたすぐに引っ越す事になるかもしれないから、付き合っても続かないでしょって」

「どこかに彼女がいるからとか、美智に興味が無いからとかじゃないんだ」

「彼女はいないし、美智ちゃんは可愛いって思ってるよ。ただウチが特殊だからなあーって」

「お家が特殊じゃなかったら、付き合ってたの?」

「かもねえー」

「チャラいよね。太刀川たちかわ君」

「まさか。俺超誠実だぜ? まあこればっかりは付き合ってみないとっかんないかなー」

「じゃあ付き合う?」


 流れるように、相川は言った。


 気付けばとっくに本は閉じていて、揃えられた両手は、行儀よく本の手前に置かれている。


「デートは校内? 喫茶店? それともお互いの家? 私はどこでもいいけれど。付き合えば太刀川君が、いい加減な人じゃないって、分かるんでしょ?」


 そう、何も読み取れない灰色の目が、じっと俺を見つめていた。


「――太刀川君のその言葉が、本当なら」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 何かラブコメみたいになっちゃいましたけれど。どうなんでしょ。これをこのまま、真冬視点で書き直してみようかなあ。


 一人称視点の方がラノベ層は読んでくれるらしいので、太刀川か真冬かで、視点は絞ろうと思ってます。三人称でもいいんですけれど、読者選考のあるweb小説のコンテストという性質を考えると……。やっぱ一人称かなーと。ていうか今回、コミカル要素を入れるのを忘れてましたね。ええんやろか。


 まあこんな感じになりました。


 では今回は、この辺で!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る