試行錯誤その二改。


 どうもこんばんは。木元です。頂いたコメントにより、三人称視点で書いた第二案を、一人称視点で書き直してみました。丸ごとぺたっと貼り付けてみます。文字数はちょっと増えまして、2,404文字になりました。


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「お願い真冬まふゆ! 今日の委員会の仕事代わって!」


 私の正面に立つ、紺のカーディガンに黒のブレザーを着込んだ女子生徒は、言うが早いか、私を拝むように両手を合わせると頭を下げる。拍子にさらっと、鎖骨辺りまで伸ばした赤毛が肩から落ちた。クラスメートの、野分のわき摩耶まやだ。バスケ部の副キャプテンで、何をするにも元気ハツラツ。


 摩耶に後ろから呼び止められた私は向き直ると、そのつむじをじっと眺める。


 やっぱりいつ見ても背が高い。羨ましいなあ。


「今日はどぉーしても外せない用があるんだ! 要領のいい真冬なら、図書委員の仕事なんて余裕でしょ!?」


 まあ確かに、ラベル順に本を棚へ並べるなんて単調な作業、落ち着きの無い摩耶より、私の方が適任だと思う。


「えっ、つかさっきから無言なんだけれど、話聞い――」


 私は無言のまま右手を上げると、親指で摩耶のつむじをぎゅっと押し込んだ。


「あだだだだだだだ!?」

「やだ。じゃあね」


 思うけれど、それとこれとは別である。


 私は右手を下ろすと、お年頃らしく短くしたスカートを揺らしながら背を向けた。へそ辺りまで伸ばした味の無い白髪はくはつが、黒いスカートと揺れる。本当はばっさり切りたいんだけれど、失恋みたいでしたくない。委員会の仕事も、自分の役目じゃないのにしたくない。


「だー待って待って待って待って!」


 立ち去る私に気付いた摩耶は咄嗟に踏み込むと、私の左腕を掴んだ。ぴしりと左腕を伸ばされた私は、立ち止まると振り返る。


 私を相手にここまでアグレッシブに攻めて来るクラスメートは、実は結構レアだったりする。どうやら私は周囲から、高嶺の花ような扱いを受けているのだ。


 多分、表情が乏しいのと、この艶の無い白髪や、灰色の瞳、血の気が無いと言ってもいいぐらい白い肌と、兎に角色素の少さを押し出してくる身体的特徴も相俟あいまって、周囲からは掴み所の無い美人だと、語られているらしい。私がちょっと発言すれば、周囲の人達は空気が冷え込んだようにさあっと黙って、神々しいものでも見るような目を向けてくる。 


 でも摩耶は、そんなポジションにいる私にも、慣れ切った様子で食い下がった。


「ジュース奢るから! 紙パックとかのケチなやつじゃなくて! 160円のペットボトルで紅茶! どうよ!」

「……高が160円で人を買収しようとはいい度胸だ……」


 「160円で買える美少女(らしい)」など、そんな危険な香りのするジャンルの先駆け的存在にはなりたくない。


 私は返しながら前を向くと、摩耶を振り払おうと左腕に力を込める。


 だが摩耶は負けるものかと、両腕で私の左腕を掴んで来た。


「ぐっ……! なら、パンも付けよう! 町の中心の、パン屋さん……! あんドーナツ、好きでしょ!?」

「甘いものを食べると、しょっぱいものが欲しくなるよね」


 ぐいぐいと摩耶を引きりながら、諦めないだろうかと厚顔な事を言ってみる。


「ぬっ……! じゃあ、総菜パンも付けようじゃないか!」

「……ていうか、サボって何しに行こうとしてるの? 摩耶」

高雄たかおとデートぉおおお!」


 昼休みで賑わう廊下に、一際大きな摩耶の声が響いた。


 当然、行き交う同級生達は摩耶に目を向ける。一部の女子生徒はにやにやと立ち止まると摩耶を見ながら、「相変わらずラブラブね」。「外の雪が溶けちゃいそうだわ」などと、高速で冷やかしの言葉を並べ始めた。叫んでから周囲の目に気付いた摩耶は「んがっ」と声を上げると、耳まで真っ赤になる。そして、一際大きな声を出されたのとその内容に、足を止めていた私と目が合った。


「……貴様ァ!」


 赤いリボンタイをぐしゃぐしゃする勢いで、摩耶に胸倉むなぐらを引っ掴まれた。


 暴力に訴えられるのは御免だと、すぐに降参するように両手を上げる。


 かなりの剣幕で睨み付けられるが、何の事だろうか。私は知らない。もしや顔に、「いじられてやんのやーいぐっへへ」と出ていたのだろうか。出ているのなら私は高嶺の花からとうの昔に脱却し、普通の扱いを受けている筈である。


 分からないので、話を戻してみた。


「……そういうのはもうちょっと、早めに言って貰わないと。暇人ひまじんにも予定がある」

「暇人に予定は無いでしょ! つかそれだけ要求しといて空いてないの今日!?」

「空いてるよ」

「空いてるんかい!」

「もうがばがばに空きまくってて、一人放課後で、フライング天体観測会を催そうとしてた所だった」

「寂しいっていうか突っ込み所が多いな! ていうか、仮に夜に行った所で……」


 摩耶はふと手を離すと、窓の外を見た。


 私達がいるのは校舎の三階で、眼下には積もった雪で真っ白になった、グランドが広がっている。グラウンドの脇に植えられた木々も、門の向こうに広がる町並みも、全てがこんもりとした白に染まっていて、空では重たそうな雪雲が厚く垂れ込み、ちらちらと粉雪を零していた。


 こんな景色が少なくとも、私達が生まれた頃から、毎日続いているらしい。


「……こんな空じゃ、何にも見えないよ」


 摩耶は窓の外を見たまま、ぽつりと言う。


「雲は見えるよ」


 ぐしゃぐしゃにされた、リボンタイを整えながら返した。


 摩耶は私に視線を戻すと、眉を曲げる。


「でもその『天体観測テンタイカンソク』って、ホシ……とか、ツキ? っていうのを、見る為の行為なんでしょ? 雲の向こうにあるらしい、夜になるとぴかぴか光るっていう。ていうかそんなの、本当にあるのかな? 太陽タイヨウっていうのもあるらしいけれど、誰も見た事無いし」

「……少なくとも、大人達は誰も知らないって」

「だっておとぎ話の世界じゃん! 蝋燭ろうそくがある訳でも無いのに、空が光るなんて!」


 そう摩耶は悪意無く、からからと笑う。


 でも私は、星も月も、太陽も、全てこの目で見た事がある。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 真冬サン、中身は全然美少女じゃないので、大分印象が変わる内容になりましたが……。どうですかねえ? 最近のラノベは一人称が多いですよねえというコメントを頂き、確かにそうだと、十代の読者を意識して、一人称視点に書き直してみました。


 もう一人、主人公格の男の子がいるので、彼を語り手としてでもう一パターン書いてみるのもありかなあと思ってます。またがらりとプロットの組み直しになるかもしれませんが……。まあちょっと、やってみましょうかね。



 では今回は、この辺で!



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