2章 旅立ち

プロローグ

 これは夢だと気付くことがある。

 今まさに自分が見ている映像はそれだろう。

 なぜならば、今自分の目の前にはこの場にいないはずの兄がいて、今より少し幼い自分がいるのだから。

 なぜならば、これは自分が今でもよく思い返す過去の出来事なのだから。


大亮だいすけ、人生の先輩として一ついいことを教えてあげよう」

「何?」


 ああ、そうだった。

 あの頃の自分は今よりもっと無愛想で、家族に対してもよくこんなウザったそうな反応していた。


「人生ってのはいつだって選択の連続だ。お前が俺たちについてくるっていうなら、なおさら選択を迫られる機会ってのは増える」

「……で?」

「大抵の人間は選択を迫られた時、『どっちを選べば後悔しないか』で選ぼうとする。けどな、人生において、後悔しない選択肢なんて実はほとんど存在しない。ほとんどの場合は『あの時ああしてたら』『こっちを選んでたらこうだったのか』と思い返すもんさ」

「ふーん」


 夢の中過去の自分は本当に興味がなさそうで、実際当時はこの言葉の重さや重要性を理解していなかった。

 何か決断を迫られた時、この言葉を何度も思い返すようになったのはもう少し後の事だった。


「だから大亮、選択肢を選ぶときは『どっちを選べば後悔しないか』じゃなく、『どっちの後悔がいいか』で選べ。どっちの後悔なら受け入れて前に進めるか、自分で責任を持つんだ。そうしたら例え失敗したとしても、すぐに立ち上がることができる」

「……失敗しない方を選べばいい話じゃん」

「絶対に失敗しない奴なんていない。どんな道を選んだってどこかで必ず転ぶ。大事なのはその後立てるのか、前に進めるのかだ」


 そうだ。

 そして自分は選んだ。

 家族から離れ、たった一人で高天ヶ原たかまがはらで戦う道を。

 いつか、家族皆でもう一度笑い合う為に。


 後悔は、やはりある。

 しかしその後悔も含めて自分は選んだのだ。

 自分を頼る人間を、欺く道を。


 それでも——


「……一真かずまに黙ってるのは、やっぱちょっと辛いなあ」


 それは夢の中の自分ではなく、紛れも無い現実の瀬戸せと大亮が発した言葉。

 気付けばもう朝になり、いつのまにか目を覚ましていた。


 ヒガン村に滞在して3日。

 黄泉国よみのくにとの戦いの疲れも取れ、いよいよ旅の支度を整える頃合いだ。

 

 さあ、前に進もう。

 立ち止まる時間はない。

 自分はこの道を、進んでいくと決めたのだから。

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