35話 それぞれの決意
カンナさんが用意してくれた昼食を食べ終えた俺らは、とりあえず解散する流れとなった。
タケフツさんらは事後処理を他の村人たちに任せっきりにしたままだし、シュウオウさんは今回の件を掻い摘んで皆に説明しなければならない。
「馬鹿正直に説明するわけにもいきませぬし、東大陸の海賊が魔獣を引き連れて侵略しに来たとでも言いくるめておきましょう」
「それで皆納得しそう?」
「そこは儂の人徳次第ですのぅ」
ほっほっほとシュウオウさんは笑って、ロウさんと共に集会所へと向かった。
俺たちの事も、船旅の最中嵐に遭ってここへ流れ着き、森で迷ったと説明してくれるとの事だ。
実際にそういった事がかなり昔に一度あったらしい。
「大人って嘘が上手いなあ」
「嫌な言い方するなよ。俺らの為だろ」
「まーねー、ありがたいよ実際」
そう言って大亮は、くぁっと欠伸をした。
疲労もあって眠いのだろう。
瞼が少し落ちて来ている。
「カンナさんが部屋用意してくれたら、すぐ寝たらどうだ?」
「ん? んーそうだねー。でもその前に行きたい所があるかな」
「行きたい所?」
「見晴らしのいい所だったら、どこでもいいんだけどね。まあ、動けないし、後でいいか」
「……よくわからんけど、もし良かったらおぶって連れてってやろうか?」
「さすがに悪いよ。一真だって疲れてるのに」
「馬鹿言え、これくらいで疲れたなんてお前や皆に笑われるわ。遠慮するな」
「やだ、かっこいい……」
大亮は両手を頬に当てて、しかしいつもの無表情で呟いた。
お前実はもう結構元気だろう。
「さて……見晴らしのいい所か……ユキなら何か知ってるかな?」
「聞きにいってみる? 結構色んなところ知ってそう」
俺は大亮に肩を貸して、ユキが休んでいる部屋まで移動していった。
部屋に近づくと、賑やかな声が聞こえてくる。
「ユキ、いいかな?」
「あ、カズマさん!」
ユキはぱぁっと明るい笑顔を俺に向けてくれる。
周りには、ユキを囲むように村の子供たちが集まっていた。
「今、ちょうどカズマさんの話をしてたんですよ!」
「え? 俺の?」
「はい! さっきヒミカお姉ちゃんが教えてくれたんです。カズマさん、1人で森の奥まで友達を助けに行ったって」
「ヒミカが?」
「はい!」
……一体どんな風に話して行ったんだろう。
余計な手間とらせてとか、くっそ情けなかったとか言われてそうだな……。
「やっぱり、カズマさんは勇敢で優しいです」
「ぐぬぬ……」
ユキが俺を褒めると、レンが苦虫を噛み潰したようななんとも言えない表情で悔しがっていた。
「そだねー、一真は優しいよ。こうして運んでくれるし」
「あ、ダイスケさんですよね? ホノムラ=ユキといいます。あの時、助けてくれてありがとうございました!」
「いいよー、まあ助けたのは一真だけどね」
「ユキ、大亮と見晴らしのいい場所に行きたいんだけど、近くにいい場所ないかな?」
なんともむず痒い方向に話が行きそうだったので、俺は遮るように本題に入った。
「あ、それなら――」
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「おぉー……。これは期待以上」
大亮が感嘆の声を漏らすのもわかる。
まさか、屋敷から歩いて15分くらいの所に村を一望できるような場所があるとは。
麓から高さ5、60メートル程度と小さいが、それは確かに山だった。
大亮をおぶったまま石段を登るのは流石に少しキツかったが、この高さだしなんとか登り切ってみせた。
「ありがと、一真」
「な、なんのなんのこれしき」
大亮はその場に座って景色を眺めながら、時計をちらりと確認した。
「午後2時過ぎ。いいねー、ポカポカして風も吹いてて……絶景ですなー」
「……ホントな」
あまりに色々な事がありすぎて、まだそんな時間なのかと思った。
ほんの2日足らずで、俺は全て失って、
自分という人間を真剣に見つめ直して。
慌ただしかった分、こうした場所は余計に心を安らげてくれる。
「大亮は何でこういう場所探してたんだ?」
「あー、まあ趣味というかなんというか……初めて来た場所は見晴らしのいい所や名所とか、ランドマークを見たいんだよね」
「あー、そういのいいな。旅の醍醐味って感じで」
「家族が皆、そういうの全力で楽しむ人たちだったから、気付いたら俺もって感じだね」
そういえば大亮の家族は皆、
トラブって大亮だけこっちに残ったって言ってたけど、まだ15歳で意図せず家族と離れ離れになって寂しくないわけないよな。
そういうのをおくびにも出さない。
7つも歳下だけど、本当に尊敬するわ。
「まあ、いつかまた会えるって確信してるからね。それに一人旅ってのも結構楽しんでるし」
「……本当に治んねぇなあ、表情に出すの」
「そりゃ何事も1日2日で変わったら誰も苦労しないさ。大事なのは変わろうと思う事と継続する事だよ」
「ごもっともで」
今までと同じ轍は踏まない。
調子に乗って大した努力もしなかったら、何一つ変われやしないんだ。
「……改めて、ありがとう一真。本当に助かったし、色々考えさせられたよ」
「ん?」
「俺がこっちで助けた中津国人は一真で5人目だけど……一真だけだよ。俺を助けるどころか、そんなに感謝してくれた人」
「……はあ? なんだそりゃ。助けるのはともかく、助けてもらって家まで送ってもらって感謝くらいするだろ普通」
「……ま、一真じゃなくても
そこで大亮は、はあっと溜息をついた。
「いざ自分がそうなるとね、大抵のヤツは被害者ヅラして守ってもらって当たり前、送り届けられて当たり前ってな感じで、感謝どころか酷いヤツだとワガママ言い放題だよ。まあ、俺が子供だから下に見てるのもあるだろうけどー」
いつも通りの無表情だが、なんとなく不快そうなのは伝わって来た。
しかし、いきなり迷い込んで混乱する気持ちはわからなくもないが、命懸けで守ってくれてる奴相手によくそんな態度取れるな……。
「こいつらもう放ったらかして御神体の所行こうって何度思ったか……」
「お、お疲れ様です……」
「まあ、だから森でお礼言ってくれた時は素直に嬉しかったし、まさか助けてくれるなんて思わなかったからさ」
そこで大亮は俺の顔をしっかりと見据えた。
「感謝の為にやってるわけじゃないけど、やっぱりああ言ってもらえてやり甲斐みたいなのは感じたし、一真が言った『他人の命はそんなに軽くない』っていうのも凄い響いたよ。自分の力を過信して、どこか人を助けるなんて簡単だと思ってた」
この2日で何度も見た、赤みがかった茶髪とダークブラウンの瞳。
女性のようにも見える中性的で整った顔立ち。
やはり、こいつには人を惹きつける先天的な何かがあるような気がする。
俺は大亮から目が離せなかった。
「改めて誓うよ、俺は必ず一真を無事に元の世界へ帰してみせる。命を懸けて」
……俺も、伝えるべきだろう。
さっきの話を聞いて自分なりに何ができるか、何を
するべきか考えた。
それが正しいのかはわからないけど、何もしないのもう嫌だ。
「なあ、大亮」
「ん?」
「もし迷惑じゃなきゃ……俺に身の守り方を……戦い方を教えてくれないか?」
命を懸けて、俺を守ってくれる奴がいる。
俺をいい奴だと、死んで欲しくないと言ってくれる奴がいる。
そんな奴にだけ命を懸けさせて、自分はただ守られるだけ。そんな男に本当に命懸けで守ってもらう価値があるのか。
少なくとも、他に何もない俺は出来ることを1つずつ積み重ねなければならない。
それに少しでも大亮の負担を減らしてやりたい。
重荷に、足手まといにだけは、なりたくない。
「……覚えたって、元の世界ではほとんど役に立たないかもよ?」
「今、少しでもお前の役に立つなら意味がある」
「タケフツさんも言ってたけど、一真の為に使う俺の力は、立派な一真の力だよ?」
「だからって、俺が何もしなくていい理由にならない。むしろ、皆にそう思ってもらえるような人間であり続けないと」
俺の力は微々たるものだ。
俺は見事なまでに凡人だ。
だからこそ、周りの人に力を貸してもらわないとほとんど何もできやしない。
俺の力は、人の力。
なら、何より自分を磨かないといけない。
人の力を使うからこそ、誰より自分が努力しなきゃいけない。
それが、俺が辿り着いた秋沢一真の生き方だ。
「……まあ、あまり人に教えたりとかした事ないから、上手くできるかわからないけど……俺でよかったら」
「ありがとう、大亮」
全てを、失った。
いや、失ったと思ってた。
けどどんな人間だって平等に、未来だけは必ず手元に残されているんだ。
必死に、生きよう。
俺の為に力を貸してくれる人たちの為に。
もう自分を卑下するのはやめよう。
俺を信頼してくれる人たちの為に。
きっと、これから始まる旅は俺にとって間違いなくかけがえのないものになる。
そんな予感がしたんだ。
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