遥か昔の話 封印と呪い

 彼女の、すすり泣く声が耳に響く。

 胸が、とても苦しい。

 彼女を悲しませてしまった事がではない。

 ただ必死に走って、力の限りの魔術を使って、純粋に疲れ果ててしまっただけだ。

 背中の大岩越しに、彼女の声が聞こえてきた。


「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……ずっと一緒よ、許さないわ愛しているわ殺してやるわ離さないわ逃がさないわ」


 泣き声と怨嗟の声と共に聞こえるガリガリという音は、彼女が私を諦めきれず、大岩を爪で引っ掻いている音なのだろうか。

 彼女は壊れてしまったのか、ずっと同じことを繰り返し語るだけとなった。

 

 彼女を愛していた。

 もう一度、一目会いたかった。

 もう一度、共に過ごしたかった。

 ……なんと愚かな願いであっただろうか。

 ……なんと汚らわしい望みであっただろうか。


 やがて、泣き声が止み、気味の悪い爪音も聞こえなくなった。


「……ねえ、あなた。無駄よ? こんな封印なんて、私がいつか必ず解いてみせる。たとえ幾千幾万の時を重ねようとも……私は必ずあなたの元へ行くわ。そして今度こそ永遠を共に過ごすの」

「……無駄だ、この封印はお前には解けん。人を永遠に生み続ける私の魔力が尽きることは決して無いのだから」

「なら、それ以上に私が殺してあげる。殺して、殺して、殺して、あなたが生む命以上に殺して、この大岩が全て紅く染まった時、私はあなたに会いに行くわ……」

「……お前の魔力で、私の生み出す以上の命を呪い殺すことは不可能だ」

「私が殺さなくてもいいの……ふふふ……見てなさい。私は必ず、この岩を綺麗に染めて見せるわ……」

「……好きにするがいい」


 私は、もう後ろを振り返りもせず、その場を立ち去った。

 もう二度とここへ来ることもあるまい。

 もう二度と彼女と会うこともあるまい。


 全ては、過去の事。

 私にはまだやらなければやらないことがある。

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