34話 終戦後の最後の情報整理
「俺らが死ねば死ぬほど
「……儂らの住む、この
シュウオウさんが顎の髭を弄りながら、その先を答えた。
「そーゆーこと。ただでさえ、自分たちの命を伸ばすために他の異世界人を生贄にするなんて、世界中敵に回すような大犯罪行為なのに、そんなの聞く耳持たずその上とんずらこいたってわけ」
「……儂は先代と以前仕えていた神族の方より、御神体によって、高天ヶ原が1つの世界として成り立っていること。そして、そこに至った理由を聞いておった。無論、間違っていることだとわかってはいたが……儂1人でできることはあまりに少なく、高天ヶ原と、村の者たちを守る為と自分を誤魔化して生きてきた」
シュウオウさんが、目を固く瞑り、長く溜め込んだ後悔を絞り出すように語った。
ヒミカら村の人たちは、そんなシュウオウさんを決して責めるでなく、むしろ同情しているかのように見据えていた。
「まさか、中津国と黄泉国の間でそのような事が起こっていようとは……あの時、あの方に言われた言葉……『例え無力だろうと、自分の心に背く生き方をすれば必ず後悔する』……老い先短くなって、今更胸を締め付けてくるわい……」
「……ああ……言いそうだなあ、あの人は」
シュウオウさんの言葉に、大亮は懐かしむように目を細めた。
「……俺らは、神族による生贄をやめさせるために、高天ヶ原へとやってきた。幸い、中津国から高天ヶ原に続く『道』をなんとか探し出したからね。……まあ、まさか一部の黄泉の奴らまで、完全復活の前についてきてたのは誤算だったけど」
大亮が、今回の騒動で1番最初に戦った相手が、そうらしい。
黄泉国は中津国人を大量に殺し、封印を解いて戦力を全て整えてから高天ヶ原へと侵攻するつもりだったのだが、その
向こうからしても、生贄行為は自分たちに理があるし、止めさせるわけにいかない。
しかも神族であれば御神体を起動できる為、1人はこちらにいた方が何かと便利だと周りを言いくるめてお咎めはなかったそうだと大亮は語った。
「で、結局俺らの交渉は失敗。中津国へ一旦戻るはずだったんだけど、ちょいトラブってね。俺だけこっちに残ったんだ。まあ、俺1人でも御神体全部壊せば、他の異世界との繋がりが戻って高天ヶ原も好き勝手できないし、中津国は家族に任せて俺は高天ヶ原で頑張ってたわけです」
その後は、俺が聞いたことや、この村で皆が見聞きしたことになる。
大亮は、御神体を破壊し封印する旅を続けつつ、迷い込んだ中津国人を保護してなんとか無事元の世界に返していた。
今回封印したのと合わせ、これで4つ封印したらしい。
今回はシュウオウさんに事情を説明し御神体を封印するつもりだったのだが、黒雷の邪魔が入り、このような事態となったという。
「正直今回のは、黄泉国の意向ってより、勇み足気味の
「嫌がらせ?」
「今回、向こうの行動が穴だらけだもん。俺が、もし一真を無視して御神体を封印してたら? 一真とユキちゃんを助けた後、すぐ村の人たちが来てなかったら? 少し遅かったら俺はそのまま2人を連れて封印に行ったよ?」
「……あ、そうか」
言われてみたら、確かにそうだ。
もし、大亮がどこかのタイミングで封印を優先していたら、今回の騒動はあり得なかったんだ。
「こんな時期尚早に攻めてくるなんて思わなかったから、こっちも先延ばしにしてたけど」
「黒雷とやらはそこまで考えて……?
「まさか」
ロウさんの問いを大亮は一蹴する。
「多分、そうなったら面白いな。こうなったらこうなるかもな、くらいにしか考えてないよあいつは。頭が切れるくせにわざと不確定な要素を作戦のキモにして、後はどう転ぶか楽しむだけ」
大亮は心底呆れたような、うんざりとした表情だ。
「ま、結局面白いくらいあいつの望んだ展開になったけどね。正直、こんな早く攻めて来たから、中津国の家族皆やられたのかと思ったり思わなかったり」
「どっちだよ……」
大亮はそこで、知ってる事は話したとばかりに、カンナさんが用意した、すでにぬるくなった茶をすする。
……まだ上手く体が動かないらしく、褐色肌の女の子が飲ませてあげてるけど。
爆ぜればいいのに。
「さて、知った以上は他言無用。万が一誰かに漏らして、神族の耳に入ったら一族郎党皆殺しになってもおかしくないよ」
「……うむ、神族……特に中央の連中は、外界からの接触を断絶した以上自国の繁栄と搾取のみで生活しておりますからの。求心力が下がることを何よりも恐れましょう」
大亮とシュウオウさんが皆を見渡す。
正直、覚悟はしていたがあまりにも重すぎる話だ。
後悔が全くないと言えば嘘になる。
それは皆も同じようだ。
「自分たちの欲と面子を満たすために外界との接触を断ち、都合の悪いことは力尽くで揉み消す……。どんな世界でも、そういうのはどこも変わらないようだな」
タケフツさんが隣にいる俺にだけ聞こえるような声で呟いていた。
何かを嘲るような笑みを浮かべている。
「さて、とりあえずさー。こんだけ話したわけだし……」
大亮は全員を見渡し、いつもの無表情で——
「お昼食べない?」
いつも通りマイペースに提案してきた。
そういえば、こいつを一発ド突こうと決めてた事を思い出し、俺は大亮の頭を引っぱたいた。
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