33話 終戦後の情報整理その3

黄泉国よみのくにというと……あの魑魅魍魎が巣食うというあの?」

「鬼とかー、妖怪とか? まあ色々有名な黄泉国」


 シュウオウさんの問いに大亮が答える。

 どうやらここから先の話はシュウオウさんも知らないらしい。

 しかし、俺の住む葦原中津国あしわらのなかつくにでも高天ヶ原たかまがはらと黄泉国は有名だが、こちらの世界でもそれぞれの世界は有名なようだ。


「そんな奴らが何故このヒガン村に?」

「ヒガン村にっていうか……まあ、高天ヶ原に来たかったんだよあいつらは。あと若干1名は俺と戦いたかった」

「?」


 ロウさんは質問の答えに合点がいかないようで、首を傾げている。

 俺も今のはイマイチよくわからなかった。


「黄泉国は大昔から高天ヶ原を侵略したがってたみたいなんだよね。黄泉国は本来どこの異世界にも行けないよう強力な封印がされているんだけど……」

「けど何よ?」

「ちょうどこの高天ヶ原が外の世界から乖離する少し前から、封印が弱まって来たんだよね。ちょろちょろと出て来ちゃったんだ、黄泉国からああいうのが」


 あんな鬼やら、蜘蛛女みたいな奴らがちょろちょろ出て来たって……かなり大事おおごとなんじゃ……。

 ……ん? ちょっと待った。


「大亮、質問」

「うい」

「その……黄泉国? から出て来ちゃったって……高天ヶ原にじゃないよな?」


 そう、あいつらは俺が通って来た『道』から高天ヶ原にやって来た。つまりあいつらは、黄泉国の封印から抜け出して直接高天ヶ原に来たのではなく——


「あ、うん。黄泉国から高天ヶ原に直接は行けないし、高天ヶ原から黄泉国も直接は行けないよ? 絶対に葦原中津国は通らなきゃ行けないもん」


 やはりか。なんて迷惑な話だ。

 今にも戦争おっ始めようとしてる2つの世界に俺たちは挟まれてるんじゃないか!

 これじゃ、仮に元の世界に帰ったっていつ戦いに巻き込まれるか……。


「まあ、いつ巻き込まれるかっていうか、30年以上前から中津国でも黄泉国と裏でドンパチしてるんだけどね」

「え、あ、そう」

「うん」

「……」

「……」

「はあああああああああああああ!?」


 ちょっと待て!

 こちとら海外のテロや戦争のニュースを見て「あー、向こうは大変だなー」とか呑気に茶ぁしばくのがお家芸の日本人だぞ!?

 国内でそんな長く、そんな化け物共と戦いがあったなんてそんなの信じられるか!!


「一真、今日イチ声張ったね」

「そりゃ張るわ! 戦争なんかテレビの向こうや歴史の中での事だと思うような世代だぞ! そんな……」

「ま、直接戦うようになったのが30年くらい前ってだけで、ずーっと昔から黄泉国の奴らは中津国で色々やってたらしいけどね。中津国で内乱を引き起こしたり」

「!?」


 大亮の最後の言葉に、タケフツさんが身を乗り出すほど反応した。


「内乱を……引き起こしただと?」

「まあ、黄泉国の奴らが本格的に封印から抜け出し始めたのが150年くらい前だから……それ以降に起きた内乱とかね。もちろん全部が全部じゃないらしいし、俺もその時代に生きてないから詳しくはなんとも」


 タケフツさんは急に俯いてブツブツと何かを呟きながら考え事をし始めた。

 そして大亮を見ると、深刻な顔で問いかけた。


「中津国は今、何年だ?」

「ん? 西暦で? 元号で?」

「せい……? 何を言っている」

「……あー、結構前に死んだ人なのか(ぼそっ)。タケフツさん、覚えてる限りで何か大きな事件あった?」

「……幕府による大政奉還。新政府の樹立。そして、新旧勢力により国中を巻き込んだ大戦」

「……おお、それならちょうど黄泉国の封印が解けて来た頃だと思うよ? 150年以上前だね」


 タケフツさんは信じられない、と言ったような愕然とした表情で固まってしまった。

 ヒミカやロウさんや俺は、2人が何の話をしているか全くわからず戸惑うばかりだ。


「ま、ちょっと脱線したし、そのあたりの話は後で個別に答えるよ。とにかく、黄泉国の奴らは大昔から高天ヶ原への進行を目論んでて、150年くらい前から本格的に実行に移し出した。30年くらい前から、理由はまだわかってないけど中津国人でも魔術を使える人が少し増えて……何人かは黄泉国と戦ってた。俺や家族がそうだね」


 嫌な過去でも思い出したか、大亮は遠くを見た。

 ヒミカやロウさんは大亮も中津国の出身だと聞いて驚いた様子だ。

 まあ、あれだけぽんぽん魔術使う奴が中津国出身とは思わないだろう。


「ちょっと待ちなさいよ。黄泉の奴らは高天ヶ原に用があるんでしょ? なんであんたら中津国人が戦わなきゃいけないのよ」

「黄泉国の封印を解く鍵ってのが、俺たち中津国人の命だからだよ」


 瞬間、場の空気が固まる。

 随分あっさりとしていたが、とんでもない事をこいつは言い放った。


「黄泉国は封印を完全に解いて、高天ヶ原に侵攻したい。俺たちは当然死にたくない。そりゃ戦いにもなるよね。中津国で戦える奴らは少ないけど、黄泉の奴らもまだそんな大軍で出てこれないから、なんとか持ちこたえてたんだけど」

「な、なんで黄泉国の封印が俺たちの命で……!?」

「命って魔力の塊だしねぇ……ま、命なんざ無限に生み出せるし、絶対に封印が解かれるわけないなんて、たか括ってたんだろ(ぼそっ)」


 最後の方はよく聞き取れなかったが、俺は聞き返す気になれなかった。

 大亮の顔が今まで見た中で最も冷たく、恐ろしく見えたからだ。


「ま、こっちも必死で抵抗したけど、どうにも戦力が足りないからさ、色んな異世界回って協力を要請したりしたんだ。この娘たちも、その時できた友達だよ」

「友達だなんて……妾たちはもっと深い絆で結ばれた仲ではないか。真夜中にあんな激しく……」

「ああ、殺されかけたわな俺」


 金髪の外人が頬に手を当て、顔を赤らめてくねくねし出したが、相変わらず何言ってるかわかんねぇ。

 とりあえず大亮の顔がさっきと劣らず冷たい。


「俺たち中津国人は、最初わけのわからない化け物たちから身を守る為だけに戦ってたけど、色んな異世界で話を聞いてるうちに、黄泉の奴らが俺らの命を狙う理由を知った。しかも、俺らが死ねば死ぬほど奴らは勢力を増すのに、そんなことも知らずに俺ら中津国人を家畜のように殺しまくる馬鹿どもがいた。それが——」

「……儂らの住む、この高天ヶ原の神族たちというわけですかの」


 シュウオウさんが顎の髭を弄りながら、その先を答えた。

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