32話 終戦後の情報整理その2

「……よく泣くわねあんた」

「う、うるさいな」


 俺はゴシゴシと目元を拭う。

 ヒミカはそんな俺を見てふっと笑った。


「で、一真。ここから先の話は一般人が聞くような話じゃない。万が一うっかり誰かに漏らしたら、最悪死ぬことも有り得る。だから、退室して欲しい」


 大亮が真顔で俺に告げる。

 タケフツさんらも同様の表情だ。

 しかし——


「ってのは、一応お仕事上の忠告で」

「ん?」

「一真の友達としては、一真の意思を尊重したい気持ちもあるよ。助けてもらったし、それに——」


 そう言って大亮はボリュームネックのジッパーを下ろし、初めてその顔を全てさらけ出す。

 口元を隠していてもわかったが、やはり中性的で少しだけハーフかクォーターの様な顔立ちをしていた。

 男子に使う言葉として不適当かもしれないが、綺麗な顔だと思った。


「何か起きても、俺が守るしね。命を懸けて」


 そして大亮は天使の様に笑う。

 初めて素顔をさらけ出して笑う大亮は、より一層幻想的で、男の俺でも思わず見惚れてしまうほどだ。


「……やっぱカッコいいよなぁ、さらっとそんな事言えるのはさ」

「さらっと言わせられるのが一真の凄いところだよ」


 ……俺の凄いところ、か。

 今なら素直に受け入れられる。

 俺の唯一の誇り。

 俺の、たった1つの武器。

 命に、人に、誠実である事。

 そんなものを自分で取り柄だなんて言うのは、小っ恥ずかしいものがあるが……。

 

 きっと大亮は、俺が何も知らないままでも、変わらず守ろうとしてくれるのだろう。

 それこそ、俺が言った様に命を懸けて。

 そう、簡単じゃないんだ。誰かを守るなんて本来は。 

 それも、大亮は“世界の真実”を知っているというリスク付きだ。


 俺は、大亮だけにそんなリスクを負わせられるのか。大亮に頼りきりでいいのか。

 今ならすぐ答えられる。ノーだ。

 大亮が、タケフツさんが、皆が教えてくれた。

 心の思うままに、誠実でいられるのが俺という人間なんだと。

 

 俺の心が、ただ大亮だけに命を懸けさせるのを嫌がっている。

 こいつとは、できる限り対等でいたい。対等でいる為の努力をしたい。

 カンナさんは誇りの為に命を軽視するなと言った。

 けど友達の為に命を懸けるのは、それも決して間違いじゃないと思うんだ。


「……後悔はしないさ」


 俺は覚悟を決めて、大亮にそう告げた。


「全員参加で。いいね、思い切りが良くて。ウチの家族みたいだ」


 大亮はクスクスと笑う。

 顔を晒した途端表情が少し豊かになった。


「神族が御神体を作った理由は、禁忌の為だよ」

「禁忌……とは何だ?」

「神族の寿命知ってる?」

「……確か3000年から5000年くらいだったか」


 ロウさんが大亮からの質問に答える。

 ……なっが。人間なら精神が保たなそうだ

 

「では、問題です。それを過ぎたら神族はどうなるのでしょう」

「どうって……そりゃ寿命だもの、亡くなるでしょ」

高天ヶ原たかまがはら外の神族はね」

「……は?」

「高天ヶ原の神族は、死なない。ずっと命を繰り返すのさ。ある方法で」


 大亮はそう言って顔をしかめる。

 嫌悪感が滲み出ていた。


「高天ヶ原の神族にとって、中津国なかつくには牧場みたいなもん。中津国人は、家畜だ」

「……どういう事だ?」

「体を乗っ取られるんだ。神族が死にそうになったら、適当な中津国人を何人か攫って、その神族に適合する奴が記憶と魂を消され、新しい器になる。そしてまた新たな体となって神族は生き続ける」

「なっ……!」

「何よそれ……!」

「故に神隠し……ってね」


 ……これは確かにヘビーな内容だ。

 まさか神様って奴らの本性がそんなゲスかったとはね。

 

「当然他国はほぼ全て高天ヶ原を糾弾した。禁忌を犯してるわけだし、当たり前だけど」

「……なるほど、それで」

「そう、逃げる様に高天ヶ原は御神体を作り、結界を張って他国から乖離した。しかも、中津国へだけは行ける様にわざわざ調整までしてね。他国との関係なんかより、永遠に続く自国の繁栄と命の方が大事だったんだろうけど」


 チラッと周りを見ると、シュウオウさんが神妙な顔をしている。

 ユキの話だと、昔は神族の元で武将をやっていたというし、何かしら関わっていた事もあるのかもしれない。


「高天ヶ原は比較的食料自給率やら高かったし、独自の文化技術形態もあったから、他国のご機嫌伺う理由も大してなかったしね。今までは地脈の異常とかで稀にしか発生しなかった『道』を人工的に作り出す技術を開発し、結界と共に魔道具に組み込まれた」


 家畜……神隠し……生贄。

 ……じゃあ、俺が高天ヶ原に迷い込んだ理由って……!


「ちなみに一真を高天ヶ原に連れてきた奴らは確かに神族だけど、高天ヶ原とは関係ないよ」

「え?」

「あれは、高天ヶ原とも、中津国とも、他の天上異世界とも違う、日本大陸固有のもう1つの異世界からの刺客の仕業だから」


 高天ヶ原に、俺が住んでる中津国。

 それ以外に日本にある異世界なんて、1つしかないじゃないか。

 大亮は俺の目を見て、こくっと頷く。


「あれは、『黄泉国よみのくに』の奴らの仕業だよ。

 

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