4話 それは朱く、赤く、そして紅く――
目の前が、紅く染まっていく。
焼け爛れたような鬼の肌の朱も、燃え盛る炎の赤も、すべて塗りつぶすかのように。
しかし、その鮮血の
「ガアアアアアアアアアアッ!!」
俺に向かって腕を振り下ろそうとしていた鬼が、吠える。
俺に振り下ろすはずだった腕を失い、見るからに狼狽していた。
すっぱりと綺麗に切断された腕からは、今なお血が流れ続けている。
いったい何が起きた?
俺が突然の出来事に呆けていると――
「あー、よかった間に合って」
フードこそ被っていなかったが、両手に携えた刀で先ほどの人物だと認識できた。
走ってきたのか、額には大粒の汗が浮かび、少し息を切らしていた。
そして何よりも――目だ。
少年の目が、まるで宝石でも埋め込んだかのように紅く光っている。
その光は小さくも力強く、どこか美しさすら感じさせた。
「はい下がって下がってー、危ないよー。……あ、足ケガしてるのか」
言い終えるより前に、もう1体の鬼が少年に向かって襲い掛かったが、少年は人間離れした跳躍力でそれを回避し、そのまま俺の近くに着地した。
「はい、あげる」
少年は一体どこから取り出したのか、白い花を一輪俺に差し出した。
……血の付いた刀を持ちながら渡すのはやめてくれ。
「傷口にあてておくといいよ、それぐらいならすぐ塞がるから。あと、その
そういって少年は鬼へと向き直り、一歩前へと進んだ。
ふと後ろを振り返ると、少女は気を失って横たわっていた。
いきなり大量の血を見てしまい、気絶してしまったようだ。
「心配しなくていいよ」
少年はこちらをちらりと振り返り――
「あなたはちゃんと俺が、元の世界に帰してあげるから」
「!!」
――不思議だ。
口元を隠していても、少年が優しく微笑んだのがわかった。
この少年はおそらく、俺がここで感じた疑問も、状況も、すべてを理解している。
そして、その答えも彼は持っている。
だが、それを問いただすことを俺はしなかった。
急がなくとも、きっと彼はすべてを答えてくれる。
きっと彼は、このような状況も容易く乗り越えてしまう。
今さっき会ったばかりの、たった今顔を知ったばかりの年下の少年を、なぜここまで信頼できるのか自分でもわからない。
だが、先ほど対峙した時に感じた禍々しさは微塵もなく、温かく包み込むような不思議な優しい雰囲気を纏っていた。
「グルアアアアアアアアア!」
「コォォォ……!」
「……うるさいよ」
少年は足を前後に大きく開いて重心を落とし、上半身をゆらり……と脱力させた独特の構えを取った。
ゆらゆらと上半身を揺らし、リズムを取っているようだ。
徐々にその動きは大きく、そして速くなっていく。
フッ――
刹那、少年の姿が視界から音もなく消えた。
「グアッ!」
「ガァウ!」
2体の鬼が、それぞれ立っていた場所から一歩バックステップしたのと、ブシュッ! という音と共に鮮血が噴き出したのはほぼ同時だった。
「ホントに鬼ってのは、無駄に勘ばっかり良くてメンドくさいね」
気付けば少年は、隻腕になった鬼の背後に回っていた。
鬼は振り向きざまに少年へと攻撃を試みるが、そこに少年の姿はすでにない。
そして鬼の脇腹が切り裂かれ、新たに血が噴き出す。
俺は少年の姿を目で追うのが精一杯だった。
いや、正確に言うと追えてすらいない。
わずかに見える剣閃と、紅い目の軌跡をなんとか認識できるだけだ。
よく漫画や小説なんかで、舞うように戦うというのは見聞きしたことがある。
しかし、今俺の目の前で踊るようにくるくると回っているのは鬼たちの方だった。
それはまるで死の舞。
回るたびに、舞うたびに、紅い血がまるで羽衣のように噴き出しては消える。
徐々に2体の鬼の動きは鈍くなっていた。
特に片腕を切り落とされた鬼は、出血が致死量に達しつつあるのか、目に見えてふらついていた。
「グアウッ!」
もう1体の鬼が咄嗟に距離を取る。
少年は一旦動きを止め、その紅蓮の瞳で鬼を睨みつけている。
そして、鬼の体が青白く発光したと思うと――
「ガアッ!!」
鬼は大きく腕を振り、鎌鼬のような蒼い刃を飛ばしてきた。
おそらく俺の足を傷つけた魔術だろう。
ザシュッ!
という音と共に、隻腕の鬼の首が跳ねた。
「!?」
「待ってたよ。
少年は、魔術を放った直後で硬直している鬼の懐に潜り込み、そして――
「バイバイ」
その両刀で鬼の体を、両断した。
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