第8話

 町は冬への準備を足早に始め、赤や黄色の葉が枝に辛抱強くしがみついている頃、若く瞬発力のあるダンは、軍人の時より勤めていたBADの担当をはずれ、KATZEの地域を任されることになっていた。

 当時のナインは今程自由が効かず、単独行動よりも軍との連携を余儀無くされており、ダンもまた小規模のチームで動いていた。

 ダンのチームは非常に優秀で、BADの討伐数は右肩上がり。ナインの中でもレディを抜いてダン程早い段階で結果をだした者はおらず、オリジナルの未来をかけ期待をされていた。そんな折、上層部の判断によりダンに異動の辞令が下る。

 付き合いの深いチームは離れがたかったが、理由が理由なだけに早々に引継ぎを行なう必要があり、考える猶予は与えられなかった。

 それというのもKATZEの前任のナインは着任歴も長く優秀な人材であったが、健闘虚しく残忍な手段で殉職しており、オリジナルの被害件数が異常なまでに増えてしまっていた為である。

 彼ら異種は、より健康な肉を好む傾向にある。当然彼らは中央侵略を目論んでいるが、彼らの寿命は短い為、世代交代も早い。稀に異様に好戦的な世代が現れる。


 彼ら異種との境界線に存在する13地区はIDも持てない貧困層のオリジナルばかりで、中には自身の血を取り引きにし息伸びているものや、子を孕み自ら売りに行くような胸糞悪い連中まで存在するギリギリのライン。

 IDを持つものでも犯罪を犯したものは剥奪されたのち、8区外に追放される。そのような理由もあってか管理を黙認せざるおえない地区の治安は悪く、常に危険が付き纏う。より新鮮な血肉を求める異種達は栄養状態のいい地区へハンターをさし向ける。彼らに匹敵する身体能力を持つナインが一人いなくなった今、彼らが狩を躊躇する理由がないのだ。


 辞令を受けてからダン一家は住み慣れた土地を離れ、KATZE側の5区へ引っ越しを始めた。家族を何より大事にしていたダンは、テレサとリコをエデンに住まわせる事を望んだが、テレサは頑として譲らなかった。

 テレサはダンが安心して帰れる場所を用意するのが務めと考えており、カラーIDで分けられている5区はテレサの意見を考慮した妥協点だった。

 移り住んでからダンは、家に帰れる時間を削りKATZEの駆除に奔走した。血の気の多いKATZEの連中は危険を犯し地区を越えて来る。ダンの率いるチームには昔の教え子もおり、以前BADで動いていたチームよりも実力もあり統率のとれた良いチームになってきていた。ダンの戦闘スタイルは慎重ではあるが部下の先頭に立ち向かっていく為、敵にマークされ易い。血の気の多い連中を黙らせるには有効だが、ダンの実力あるからこそのフォーメーションでもあり、ダンの顔は直ぐに売れた。政府の思惑通りダンが担当になってからのKATZEの活動件数は異常なまでの減少傾向にあったが、猫達の敵意は刺さる程にダンへと注がれた。


「ねぇ、あなた。仕事に口を挟む事はしたくないのだけど、最近疲れてるように見えるわ。」

 テレサは心配そうにダンの瞳を見つめる。

 ダンは慌てて切り返す。

「ごめんな。君に心配かける訳には行かないな。コウモリにくらべ猫共は頭が回るらしいようで、この間から部下が一人行方不明になっていて神経が擦り切れていた。」

 テレサはダンの肩を軽く数回叩いた後、腕を回し後ろから抱きついた。

「ダンはオリジナルの未来に必要な人。私達家族にとっても。命を奪うのだから命を賭けるのは仕方がないことだけど、死に忙ないで欲しいの。」

 遠くでリコの泣き声が聴こえる。

「あらあら、お姫様が活動開始のようね。行ってくるわ。」

 ダンはテレサの心配に複雑な気持ちでいたが、家族と過ごしている間だけいつもの血生臭い日常を忘れる事が出来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る