第7話
時は遡り、リコがこの世に生を受け1歳の誕生日を間近に控えた年に悲劇は起こる。
当時リコの父ダンは、訓練生時代から付き合っていたテレサと籍を入れ、可愛い女の子にも恵まれ幸せな日々を過ごしていた。
仕事でも成果を上げており、隊を任されてからは多種からも一目置かれる存在で、元々戦闘能力も高く機転の利くダンは教育係として訓練生の育成にも携わり、その教え子達は優秀な生徒が多く、ダンの実力は軍の上層部まで知るところとなる。気さくな性格でもあり頼り甲斐のある彼は、職場での信頼も厚く、ダンを中心に周囲はまとまっていた。
仕事は忙しくなるばかりだったが、ダンはやり甲斐を感じると共に戦うことを使命としていた。
そんな折り9HEADに空きが出来、ダンは程なくしてナイン入りをする。それと同時に家族の元で過ごす時間は大幅に削られてきてはいたが、テレサの理解もありナインになってからのダンの活躍はめざましかった。
忙しい日々が続く中、ダンにとって家族の存在は非常に大きく、いつも笑顔を絶やさないテレサは花のようにダンを癒した。
当時訓練生としての軍への入隊は12歳から応募が可能とされ、実力テスト後に入隊が決まるシステムとなっており、ダンとテレサは同期であった。美しく聡明なテレサは注目の的であり、細身からは想像出来ないが体術の成績は常にトップを誇り期待されていた。訓練生は男女関係なく組まされ武器の取扱いは勿論、ありとあらゆる知識を徹底して刷り込まれる。実力に見合わずに去る者も多い中、優秀な生徒は否が応でも目立ってくる。ダンが見目美しいテレサを目で追うようになるまでに時間はかからなかった。
「ダンどうしたの?」
突然、横からテレサがダンの顔を覗き込む。
「あぁ昔のね、訓練生だった時のことを思い出してたんだ。君は出会った時から何一つ変わらないが、兵士として優れ過ぎていたのに、今は俺の籠にいて窮屈ではないのかってね。」
テレサは優しい笑顔でダンの手をとる。
「そうね。今頃ナインで美人戦士とか言われてたかもよ。でも、ならなくて良かったとも思えるの。私は種族とか縄張りとかどうでもいいのよ。あなたに護られリコの成長を見守れることが何よりの幸せよ。」
テレサの真っ直ぐな澄んだ瞳はいつもダンにストレートに飛び込んでくる。
この世界には種族の違いを乗り越えようとする穏健派も存在する。姿に囚われず、共存の道を示す者もいるが、その数は圧倒的に少なく肩身の狭い思いをしているのが現状である。テレサの考えもこれに近いものがあり、ダンの手前口には出さないが、争いを嫌う傾向にある。テレサは幼い頃に両親を多種により殺害され叔母の元で育ち、早くひとり立ちする為に軍への入隊を決めたのだが、多種への復讐心はおろか、戦闘意欲自体が薄く本人もまたそれを自覚していた。
運命のままに訓練生入りした時に、目に飛び込んできたダンの姿はとても印象的だったとのちにテレサは語る。自分にはない、やる気に満ち溢れたダンに強く惹かれたそうだ。
相思相愛の二人に何も起きなければリコに用意された未来は全く別のものであったはずだが、運命は残酷に忍び寄る。
テレサが死んだ日、レディは言った。
「優しさは愛でる程に愛おしいが、この世界じゃ毒なんだよ。力のある奴は血を見る宿命を背負うのさ。」
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