第5話
リコの幼少期は決して恵まれていたとはいえない。他人から見ればナインを父に持ち、エデンで過ごせるだけで全てにおいて一般市民とは比べものにならない程利のある生活だが、幼いリコにはわからなかった。
「リコ、そうじゃない。死にたいのか!真面目にやれ!」
頭にこだまするのは父の怒号ばかり。
リコの父ダンは口うるさく幼い頃よりリコに戦闘訓練をつけた。そこには子供らしい甘えや感情の起伏は許されず、普段優しい父が別の生き物に見える瞬間をリコは酷く嫌った。もちろんナインの任務で忙しい身である彼がエデンにいることは少ない。だが、リコといる時間彼は父ではなく厳しい教官であり続けた。自分が見てやれない時間は全て適任者を選び託した。教養に作法、あらゆる武術を習わせ、遊びの時間などとは無縁の生活が軍に入隊する日まで延々と続いた。
親譲りの才を発揮し、その全てを自分のものとしたリコではあったが、殺人マシーンになる術を教え続ける父に対する違和感が常に付き纏った。ある時リコは聞いた。
「ママの復讐の為に強い私が必要なの?」
ダンは寂しそうな顔でリコの頭を撫でながら答えた。
「見くびってくれるなよ。復讐なら俺一人でやれるぐらいの実力はあるんだぜ。ただな、この世界は力の無いものは死に方すら選べない。悲しいがそれがこの世界の現実だ。テレサはお前には戦闘とは無縁の生活を望んでたんだ。よくそれで赤ん坊のリコを前に喧嘩したよ。」ダンは懐かしそうに笑った。
「テレサには上でたっぷり叱ってもらうさ。リコ、お前は選択出来るだけの力を身につけてきた。俺は土台しか作れないが、この世で唯一自分を保持出来るのは力だ。俺はお前には誰よりも生きてて欲しいと思っている。」
父から貰った力が全て愛であることを知り、軍への入隊の話が出た時も不思議とすんなり受け入れられた。
「…きろ…起きろよリコ!」
重たい瞼を持ち上げると、エルの顔が飛び込んできた。
「うわっ!」
「うわっじゃねぇよ!この寝坊助!いったい何時まで寝てる気なんだお前は。」
エルが指差す時計を見ると針が12時をさそうとしていた。
「朝ごはん食べ損ねた。」
また布団を掛け直そうとするリコだったが、エルはそれを許さなかった。
「昼飯だ!早く起きないと犯すぞ!」
「はいはい。犯す度胸も無いエル様のご飯を食べたいので起きますよ。」
エルは生意気なリコの答えに腹を立てぶつくさ言いながら部屋を後にした。
「久しぶりだな親父の夢なんか。せいぜいママに叱られとけ。」リコは静かにクスッと笑うのであった。
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