第3話 新しく冒険者になる人ってどこで戦い方学ぶんだろう?
3. なんだってチュートリアル
「あーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
光が走った先から叫び声が響く。真矢の声だ。
見てみると彼女の前から光が発せられている。
「どうしたの? 石井ちゃん」
「見て。何か急にひゅってきたの」
そう言って真矢が持ち上げたのは掌大の光の玉だ。両手で支えるポーズをとってはいるが、よく見ると手のひらより数センチほど浮いている。
「ファンタジーの定番だと、この玉が話を進めるカギだったりするんだけど……」
そう言って潦子が首を傾げる。その傍らでは勇希がとうとう頭を抱えだしていた。
「なんだろな、ほんとに」
そう言いながら武がその玉を突付いた瞬間だった。
『…諸君、現状は把握できたかね?』
一際強い光が玉から溢れだし、そこからゆっくりと何かが浮かび上がる。
その姿、いやシルエットは───
「あー、さっきの! ……誰だっけ?」
「もう、さっき聞いたばかりじゃない! ガディアさんだよ!」
目をキラキラさせながらガディアを指差し答える潦子の姿に、流石の真矢も思わず半身引いてしまう。こんな潦子は初めて見たのだ。そりゃまだ出会って一ヶ月ちょいでしかないのだけど、それにしたってまさかこんな。
『覚えてもらえて光栄に思おう。さて、まずは簡単にクリアの条件を説明しようか』
潦子に顔を向けてじんわりと頭を下げたところを見ると、今回のコレは個別対応型なのだろう。シルエットはゆっくりと六人を見回してから話し始めた。
『この世界に四つある石─火の石・風の石・水の石・土の石─を集め、魔王に扮する私を探し出し見事倒すことができたならゲームクリアとなる。ちなみに四つの石は各パーティーで手に入れられるのが各一つずつなだけであり、実際には世界中に山ほど散らばらせてある。決して落胆することは無く意欲を持って成し遂げてもらいたく思う。それに何、ゲーム内で死んだからといって実際に死ぬわけではない。これはあくまでゲームだ。楽しんで遊んでもらえれば喜ばしい』
大きく頷いて一度言葉を止め、また六人を見回した。その表情は杳として窺えない。シルエットである以上これは仕方のないことなのだろう。
「喜ばしい、って……」
「……あのさ、もしかして楽しんでない?」
ストーリー自体は実に分かりやすい。王道パターンと言ってもいいだろう。そこはいい。
それ以外のところがどことなく納得がいかず、微妙な面持ちで武と直人が思わず言葉をこぼす。と、
『もちろん。そのためにわざわざここまで来たのだからな』
胸を張るようなポーズでガディアが言葉を返す。……そも、星一つ巻き込んで大型ゲームをやろうだなんていい出す相手にそれは愚問だったかもしれぬ。
そうして姿勢を戻し、三度六人を見渡すと。
『さて、諸君らには数多の疑問があるだろう。ゲームを進めながら解決してもらうのが一番だが、それでは不安もまた数多あるだろう。四つだけ質問を許そう、何でも聞くといい』
そう告げて、四本の指を立てて見せた。
「なんで四つ?」
『私の好きな数字だからだ』
六人は思わず顔を見合わせる。「えぇ……」という感情を抱いてしまうのは日本人として当然の反応だろう。そうじゃなくても四なんてキリが悪い数字だろうに。……彼(仮)の星ではそうではないのだろうか。三や五の方が切りが悪い数字なのだろうか。宇宙の神秘を感じる。
そのまましばらく顔を見合わせて数十秒。どことなく空気が重たくなりつつなる中、さっきからずっと気になっている事を聞こうと、なんとか勇気を振り絞り潦子が小さく手を上げておずおずと口を開いた。
「……あ、あの、私たちの職業って何なんですか?」
『なるほど基本どころだな。右から攻術士、軽戦士、守術士、重戦士、拳闘士、霊媒士。逆もまた同じ』
名前で表せば右から潦子、勇希、香夜、直人、武、真矢、そしてまたその隣に潦子となる。潦子の質問だったから潦子を起点にしたのだろう。
『何か分からない職業はあるかね』
「はいはーいっ! 霊媒士ってなんですかー?」
告げられた当事者である真矢が勢い良く手を上げて反応する。
『霊媒士か。これはゲーム内で幻獣と呼ばれる生物を仲間にし、その姿と力を借りて戦う職業のことだ』
「あ、なるほどシャーマンってことなんだ」
「あ、なーんだ。楽じゃん」
ガディアの説明を聞いて潦子まで頷いた。霊媒というとどうしてもイタコ的なイメージが強かったのだろう。そしてその隣で真矢はすっかり笑顔になっていた。
『うまく幻獣たちに気に入られるようにな』
「だーいじょーぶだいじょーぶ。石井さん、友達多いもん」
そう言って高々とピースサインなんて掲げてしまう。それだけ自信があるということなのだ。そしてそれは事実でもある。
『あと三つ』
再び六人は顔を見合わせる。今度は間を空けることなく、香夜が軽く手を上げて疑問を口にした。
「死んだらどうなるの?」
『うむ、原則的に生き返れない』
実にあっさりと答えを返す。あっさり過ぎてろくに反応もできなかったぐらいだ。
というか楽しんでやってくれと言った割にずいぶんとシビアな設定ではないか!
『もちろん死んでどうなるわけではない。ゲームからリタイアするというだけだ。そうなった者たちは専用の場所に集められ、ゲームが終わるか全員がリタイアになるまでそこで過ごしてもらう。なに、衣食住の保障はある。安心してほしい』
フォローの言葉が続いたがフォローして欲しい箇所はそこではない気がする。いや確かに気になる箇所ではあったが。寧ろ早々にリタイアしたほうが楽そうまである気がする。……とはいえその為に死ぬのはやっぱり、ちょっと、出来ない相談になりそうだ。
『あと二つ』
二本指に促されて今度は直人が口を開いた。
「気になるんだけどさ、この玉は俺らのとこにしか来てないの?」
『いや。パーティーを組ませてもらったところ一つ一つに漏らさず配ってある。ライバルは山といるわけだな』
「なんのライバルだよ、なんの」
思わずぼそっと呟く勇希。
その"ライバル"という単語に反応したのか、真矢が気持ちいい位の大声を上げてガディアに質問した。
「はーーいっ! ライバルがいるってからには"一番"もあるんでしょ? 一番になったら何がもらえるの?」
多少強引で突飛な論理だが、言いたいことはよく分かる。これを競争と考えれば、優勝者には何か与えられるものだろう。
ワクワクと期待に満ち満ち溢れた瞳でジッとガディアを見上げ、答えを待つ。きっと何かいいものが───
『うむ。皆に勇者として尊敬され……』
「え゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
ガディアの台詞が終わる前に響く、不満そうな反論の声。というか、喚き声。
「そんなのヤダ! お金ちょーだいっ!」
「…お前なぁ」
「だってもしこの人倒すことができたら、石井さんたち地球の救世主になるんだよ? それなのに『尊敬される』だけじゃ割に合わないじゃん」
勇希が呆れたように突っ込もうとしたが、今回はそれすら許されなかった。それほど真矢の気迫はすごかった。尊敬されるだけだなんてなんの足しにもならない!というのが彼女の主張なのだ。
だからといってダイレクトに金銭をねだるのは流石にどうなのかというところだが、骨折り損のくたびれ儲けだけは避けたいところである。
『ふむ、貨幣か。バランスが難しいものはなるべく避けたいものだが……他にも何かあるかね?』
真矢の言葉にガディアは考える素振りをみせる。バランスが難しいというのは文化の違いを慮ってのものなのだろう。だからだろうか、他をと問いかけて───その反応は全く想像外のところから返ってきた。
「……月並みな幸せがいいなぁ」
ポツリと零れた言葉に、残り五人の視線が一斉に潦子に向かう。そうやって見つめられて潦子は自分が考えを声にしてしまったことに気付き、思わず勇希の後ろに隠れてしまう。
すぐに引っ張り出されてしまったのは言うまでもない。
「ねぇ、何で月並みなの? どーせだったらさ、思ぉいっっきり!幸せになった方がいーじゃん?」
心底不思議そうな表情を浮かべた香夜が潦子に尋ねる。「だよなぁ」という顔をしているのだ直人だ。武は不安そうに、勇希は訝しげに雲行きを窺っているし、真矢に至っては全力で不服そうに頬を膨らませていた。
「え……だって……」
俯きながら「あの」とか「その」とかを何度も何度も繰り返して十数秒。ギュッと目を閉じてなんとか視線を感じないようにさせてたどたどしく答え出した。
「あの……思いっきり幸せになっちゃったら、人生が面白くない……っていうか……その……目的が無くなっちゃう、と思って……いろんなハプニングがあっても、それをちゃんと乗り越えることができて……その……後になって思い返したときに笑って話せるようだったら……そういうふうに人生を過ごせたら……いい……なっ……て……」
だんだんと声が小さくなってしまったのは、うっかり目を開けてしまって、うっかり五人がじっと自分の方を見つめているのに気が付いてしまったからである。こうなるともう次の言葉なんて頭に浮かぶはずもなく、ぎゅっと首を竦めてしまう。ほんの少しの沈黙。
それを破ったのは武だった。
「俺は……別にいいと思うけど……」
照れているのかどことなく顔が赤い。頬をかいて、視線は少しだけずらしたまま。
「そりゃ、しょっちゅうこんなことがあっても困るけど……うん」
そこまで言って、ずらしていた視線を少しだけ潦子へと向ける。反応を見る、といったところか。
「うん、思ったよりちゃんと考えてるじゃん沖田さん!すごいよー、いいんじゃない?」
納得したように手を叩いたのは香夜だ。見直しちゃった!なんて言いながら潦子の手を取って潦子を困惑させたりする。
「あ、じゃあ俺も賛成しとく」
乗っとくか、ぐらいのノリで片手を挙げたのは直人。流れに乗ったとも言える。
「多数決で決定だな、石井」
「えぇー、風ちゃんは?」
「オレは何だってかまわねーから」
心底どうでも良さそうに勇希が言い放つ。真矢にとってこれ以上非情な一言は無いだろう。そうしてそんな六人を前にしてガディアは大きく頷いた。
『決まりだな。では、諸君らが勇者となったあかつきには、月並みな幸せを与えることを約束しよう』
そう言い残し、出現時と同じぐらいに突然ガディアは光の玉へと戻り、何処かへと消えていってしまった。
「あー! せめて十万円くらい…」
「っつこいんだよ、てめーは!」
「もう、沖田が余計なことを言うから!」
半分涙目で真矢が潦子をきっ、と睨む。
悲しいと言うよりは悔しい、といったところなんだろう。それにしても涙目にまでなるのが流石の執念である。
「ご、ごめんなさいっ、石井さんっ! でも、その方がいいかって──…」
「石井さんはお金のほうが良かったもん!」
「…──ごめんなさいっ!!」
ザサッ
「……あれ?」
「どうしたんだ? 静川さん」
「ん……なんか聞こえない?」
首を傾げる香夜を見て勇希も耳をそばだててみる。
ザッ ザサッ
確かに何か物音が聞こえる。それはだんだんと大きくなってきているようだ。
「何? この音」
六人は回りを見渡してみる───と、向こうに四つの影が見えた。人影のようにみえるけどどことなくシルエットがおかしい。それは何か。
「あ! コボルト!」
ファンタジー好きな潦子が黄色い声を上げた。もはや歓声に近い。
「コ…何だって?」
眉間を蹙めて勇希が問いかける。
「コボルトだよ、コボルト! ほら、悪い妖精だけどミルクあげると手伝ったりしてくれるやつ! でも基本的には悪い妖精で敵対することが多いやつ!見て分かるじゃない!」
「沖田…お…前……」
「何?」
「…なんでもない」
何かを言っても無駄だと悟ったのだろう。肩を竦めてあっさりと引き下がる。
ともあれ、件のコボルトたち四匹は猫背でゆっくりとこちらに歩いてくる。
その手には剣が握られていた。もちろん使い道は一つだろう。
「こ……殺されちゃうの?」
近くにいた潦子の服の裾を掴みながら香夜が誰ともなしに尋ねる。
「えぇ、死にたくなんかないだろ」
「や、そんなの当然でしょ? 富永君」
ザッ ザッ
「もしかして平和的解決とか、望めるわけは……」
「それも、当然だろうな……敵対とか言ってたし」
ザッ ザッ ザ
「……じゃあ、戦うしかないってことか」
武の鶴の一声。……とはいえ。
「でも、どーやって戦うの?」
当然上がる疑問の声。そうなのだ。六人は「武器」と呼べそうなものをただの一つも持っていなかったのだ。
「オレとか富永君とかは武器が無きゃ戦えねーんだろ? 魔法?使うやつがどうにかすりゃいいんじゃねーの?」
と言うのは勇希。
「えー!? だ、だって魔法の使い方とか教えてもらってないし知らないよ?」
反論するのは潦子。どちらの意見ももっともである。
「拳闘士、って武器なくても戦えそうだよな。三浦、あとは頼んだ」
と、押し付けようとしているのは直人。
「そんな、ちょっと待てよ!」
慌てて渦中の人となる可能性を否定しようとした時だった。
『おお、私としたことが忘れていたよ』
「!?」
六人の真ん中に突然ガディアが現れた。
と、後ろにいるオークたちは動きが止まっている。これはいわゆる「ポーズをかけた状態」なのだろうか。
『各自の武器は念じれば出てくる。普段から持ち歩くと邪魔でしょうがないだろうからな、格納式だ。あと、この戦闘はチュートリアルに値する。戦い方というものを試行錯誤してもらいたい。では、さらばだ』
そうして簡単に説明を告げるとあっさりと消えてしまう。
…ひょっとしたら、膨大な数のパーティーにそのことを言い忘れたのではないのだろうか。だとしたらご苦労様であるとしか言いようがない。
「……念じるんだって」
「念じるってどうすりゃいいんだ」
「とりあえず、『武器出て来い!』ってやってみる?」
六人は顔を見合わせてから思い思いに念じてみる。武器なんて生まれてこの方手にしたことなどないのだからそれはとても曖昧な念だった。それでもなんでもやってみるもので、気がつくと六人……ではなく五人の手には武器と呼ばれるものが握られていた。
武には案の定武器が出てこなかった。なんとなく納得している風であるのは、道着らしいものを着ているからなのだろう。
直人には両刃の剣が、勇希にはそれよりも細い片刃剣が持たされていた。軽くはないが重くもなく、軽く振ってみるが特に苦労はなさそうだ。
獣躁士の真矢には何故か大きめのナイフが渡されている。今のところはこれで戦えということなのだろうか。
魔法を使う系だろう潦子と香夜にはそれぞれ長い木の杖とそれよりは多少短い錫杖が渡されていた。そのまま殴るためのものではないのは一目瞭然である。
「……にしたって、剣なんて使ったことねーぞ」
剣を眺めながら勇希がぼやく。となると横からでしゃばってくるのが潦子である。
「風原さんは、選択体育で剣道とってたよね? それみたいにやればいいんじゃないかな」
頭のなかでイメージしてみながらのアドバイスだ。片刃の剣だしちょうどいいといえばちょうどいいに違いない。
「なるほど」
「じゃあ、俺はどんな風にすればいいと思う?」
勇希が納得したのを見て満足感を覚えていたところに、急に横から直人が顔を出して思わず飛び上がってしまう。これはちょっと不意打ちがすぎる。
「あ、えっと……富永君、ラグビー部だから……その、タックルみたいにして突っ込むとか……いいと思うんですけれど……」
「なるほどな」
直接会話をしたことがない男子との会話という緊張感と自分の知識が応用できる高揚感ではわずかに後者が勝ったらしい。謎の敬語が発動してしまったけれど、なんとか答えを返すことができた。そして頷いてもくれた。
思わず、安堵の溜息を吐いてしまうのも致し方ないところだろう。
「んじゃ、始めぇっ!」
面白半分に真矢が叫ぶ。するとそれが合図になったのか、ポーズがかかっていたコボルトたちがいっせいに襲いかかってきた。
「めーんっ!!」
掛け声とともに勇希が踏み込み、コボルト1の頭に剣を叩き込んだ。と、頭を切られて右往左往するコボルト1。
「うおりゃあっ!」
叫び声を上げながらコボルト2に突っ込む直人。その叫び声に驚いたのか、思わず動きが止まってしまったコボルト2の左胸に深々と直人の剣が突き刺さる。
切っても刺しても血のようなものが流れないのはそういう設定なのだろうか。リアルティがなくて気持ちが多少楽になる。
「せいっ!」
驚いたのは武だった。先程の自己紹介では柔道部だと言っていたのに、堂々と拳をコボルト3にめり込ませていたのだ。そうしてひるんだコボルト3の腕を取ってそのまま背負投げを荒々しく決める。そこは柔道だった。
「三浦、お前柔道じゃないのもできんのかよ!?」
「あ、俺、家は空手の道場で」
「なんで空手部入ってないんだよ!」
「中学んとき空手部がなくてそれで柔道部に入って……そのまま?」
直人の疑問に答えながら起き上がろうとしたコボルト3に蹴りを叩き込む。どうやら謎の場馴れ感があるようだった。
「風原さん……頑張って!」
「富永君しっかりー!」
「たけちゃーんっ、もっと派手にやっちゃえーっ!!」
こちらは呑気な三人組である。
魔法を使えない二人と幻獣と契約をしていない一人とでは戦力になりようもないのだからむべなるかなである。
「……あれ?」
しばらくしたところで、香夜が不思議そうに首を傾ぐ。
「どうしたの、しーちゃん」
「さっき、あれ四匹いたよね?」
「うん、四体いたよ」
「なんか三匹になってない?」
「ええっ!?」
真矢と潦子は思わず顔を見合わせ、三人の方を見た。
三人ともコボルトと一対一で戦っている……一体足りない!
「あ、あれ? 一匹どこ?」
ガサッ
嫌な予感がして三人は武器を持ち直し、一斉に後ろを振り向く……と。
「!!!」
三人と一体は顔を見合わせ、一緒になって驚いた。
コボルト4の方も、まさか自分に気が付いて後ろを振り向くなんて思っていなかったのだろう。対峙したまま硬直したように動かない。
「いやぁーーーっっっ! こっち来ないでーーーーーーーー!!!」
一番最初に動いたのは香夜だった。持っていた錫杖を力一杯握り締めて必死な叫び声を上げる。そしてそのまま錫杖を振り上げ、コボルト4に向かって力いっぱいに振り下ろした。
「し……しーちゃ……」
「静川さん……」
人がパニックに陥るとこんなにも恐ろしいのだろうか。
一度だけでは留まらず、二度、三度、四度。必死になって叩き続ける。
「……ちょっと可哀想……」
思わず潦子が呟いたぐらいだっただろうか。叩かれ続けたコボルト4はようやく地面に倒れ込む。
「も、もういないよね? 石井ちゃん」
「う、うん」
「良かったぁ……」
それを確認すると香夜もようやく気を緩ませて倒れ込み、気絶することができたのだった。
パパーン!
音に驚いて真矢と潦子は後ろを振り返った。
が、特になんということもなく向こうにいたコボルトたちも地面に倒れていた。もしかしたら戦闘が終了した合図なのかもしれない。
「大丈夫だった? 沖田さん」
一番近くにいた武が心配そうに近寄ってくる。
「あ……う、うん、大丈夫だったんだけど……」
心配そうに香夜の方を見る潦子。視線をそらす意味合いも多少、あった。
「静川さん、どうかしたんか?」
これは遅れてきた直人。
「んー、色々あってさー。ま、大丈夫! 気絶しているだけだと思うから」
平気平気、と当人でもないのに笑顔で手を振る真矢。
「わりぃな、さっきのが一匹そっちに行っちゃったんだろ?」
最後に頭を掻きながら勇希がやってきた。途中で一匹足りないことに気がついていたらしい。
「そんなー。風ちゃん一人の責任じゃないんだし」
勇希にも笑顔で手を降ってみせるけれど、それは遠回しに「連帯責任」と言っているわけでもある。とはいえ初めての戦闘結果としては上々なのではないだろうか。
チャリン
「お金!?」
不意に響いた金属音に、瞬時に目を向けてそれを発見し、サッと取る。
その間三秒あったかないかほど。早い早い。
「えーと、っと。あれ、他にもなんか入ってる」
中に入っていたのはご期待通りの金貨十数枚と、一枚の紙切れだった。開けてみるとそこには文字が記されている。
──最初の試練をクリアした君たちへ。おめでとう。中の金貨は私からのプレゼントだ。もちろん、好きなように使ってくれて構わない。できれば、旅に必要なものを買い揃えるように──
名前は書いていなかったが、おそらく差出人はガディアであろう。
「へぇ、結構いいとこあるじゃん、あの人」
意外そうに呟く真矢。まさかこんなタイミングでお金をもらえるだなんて思ってなかったのだろう。
「で、これで何を買えばいいんだ?」
と尋ねるのはセオリーが分かっていない勇希。
「RPGとかだと、まず始めに買うのは薬草とかだよな」
「魔法を買ったりするかもなぁ」
と男性群。
「……何? コンビニ行くの?」
ようやく目が覚めたのか、よく分からないままに香夜が尋ねる。
「まさか!きっとちゃんとしたお店が建ってるんだよ。楽しみ!」
力いっぱいに手を握って拘るのは潦子だ。
ともあれ、経緯を香夜に簡単に説明した後、何かを売っているだろう「お店」を探しに行くことにするのだった。
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