第3話 禁じられた遊び

私が20歳の誕生日を迎えたその朝はどこまででも伸び上がることができそうに透き通った青い空が広がっていた。恋人が最後に残したメモをもう一度見返す。あの人は私を迎えに来るつもりだったのだろうか。それとも私があの人を追いかけると信じていたのだろうか。

 どちらにしても、もうどうでもいいことだった。メモをくしゃりと握って投げ捨てた。

 恋人の呪いは確かに私の中に残っていて、私の一部はもう決してそこから逃れられず成熟することを拒否したままこのまま生きていくだろう。壊れた欠片をかかえたまま未完成のまま生きていくことは許されていないとずっと思い込んでいた。でも昨日、未完成のまま大人になることで進める道があることに気づかされた。

 澄んだ青い空に向かって思い切り体を伸ばす。正門脇の購買部の前では誰もが楽しそうに笑いあっている。中庭の芝生は昨日の雨で生まれ変わったように鮮やかに輝いていた。すべてが昨日よりも生き生きと親しげに見える中で、正門脇のポスターだけがみすぼらしく垂れ下がっていた。汚らしく誰にも見向きされないものとなったポスターを、1人の学生が一生懸命に貼り直そうとしていた。どことなく見覚えのあるその女性が振り向いて、目があった時にスマフォにメッセージが届いた。不躾なほど親しげなメッセージ。メッセージを消すとともに送信相手も友人リストから削除する。彼にはもう用はない。そういえばと思い出して、鞄を探ると、高揚感からつい彼から受け取ってしまったハート型のストラップが出てきた。記念として取っておくにしてもあまりに無粋なデザインだった。

「それ・・・」

 小さな声に顔を上げると、ポスターを貼り直そうとしていた女性が私の手の中のストラップを凝視している。

「よかったら、差し上げます」

 彼女はぼんやりとした白い表情のまま何も言わずに受け取った。紙のように白い表情は誰かによく似ていると思ったけど、私は過去をいちいち思い出しているほど暇じゃない。身軽になったことを感謝して、空を見上げて歩き出す。 

 どこまでもどこまでもどこまでどこまでもどこまでもどこまでもどこまでも続いていく空が私の前に広がっていた。

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禁じられた遊びの始まりから終わり ふじの @saikei17253

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