第15話 魔界 2

思わぬ痔の一声に凍り付く一同。


「じょ…冗談言うなよボラギ・ノール…」



痔「…」

ハル「…」



「まっ…まぁ、こういうこともあるだろ。あれだ、あれ…

蘇生してくれよ。」


痔「…」



痔の反応で蘇生は不可能ということを察した凌は痔に耳打ちをします。


「いいか、ボラギ・ノール。

今から俺らは中山の元へ向かい、中山を暗殺する。

争いの元である両者を消せば事実上争いは無くなるだろ?

これで一件落着だ。」



痔は戸惑いながら答えます。

「し、しかし凌様…無益な殺生は」


「え?」


「…で、ですから、無益な殺生は」


「え?」


凌は笑顔で「え?」の一点張りです。



「…わかりました。魔界では死んだ者は同じ魂としてまた一から生を授かります。

ですので、人間界における死と魔界における死は別物になります。

だからと言って殺生を容認して良い訳ではありませんが…

致し方ありませんね。」



ハルに事情を説明しない訳にはいかないので説明をすると

同じ魂として転生すると言えど、やはり暗殺はダメ!ということで

中山と話し合いの場を設け、争いをやめてもらうという方針で話がまとまりました。



邪竜と話し合いなんて危なくてイヤだなぁと思っている凌は正直乗り気ではありません。



痔の話では中山は東の山岳地帯に住んでるらしいので

一同は東を目指します。



かなりの距離があるのですが

斎藤のいた森を出た所に運良くレンタルサイクル屋さんがあったので、自転車をレンタルし時間短縮です!



さすがに魔界のボケに慣れてきた凌はもうツッコミを入れませんでした。



「凌さん!この自転車という乗り物はすごいですね!

風が気持ちいいです!」


ハルは初めて乗った自転車を短時間で見事に乗りこなしています。



「ほんと!自転車って気持ちいいよな!

初めて乗ったんだからあんまりスピード出すなよハル!」


凌は爽やかに風を切りながら痔の運転する自転車の荷台からハルに声をかけます!


そう!

凌は自転車に乗れません!



しばらく走ると前方に丸くて羽の生えた、いかにも低級悪魔なシルエットが見えてきました。


またしても敵の出現です!


「おい貴様ら!一体どこから来やがったんだ?俺様の縄張りを走るとはいい度胸してやが…」


低級悪魔の声はだんだん遠くなっていきます。


凌たちは話しかける低級悪魔をシカトしてどんどん進みました。



あっという間(3時間)に山岳地帯にたどり着いた凌たちは自転車を止め

山の麓で休憩をします。


もう辺りは暗くなっていて空には星が輝いています。

(まぁ魔界だから元々薄暗いけどね☆)



「凌様、ハル様。今日はもう遅いので一旦ここで野宿をして

明日朝一で山に登りますがよろしいでしょうか。」

痔が提案します。



「そうだな。それがいい。

キャンプなんて久しぶりだな。

とりあえず薪を拾いに行かなきゃな。」


一同は薪拾いと食材調達のため二手に別れます。


薪を拾いに近くの森へ向かった凌とハル。


ただでさえ薄暗かった魔界の森は

夜になれば真っ暗闇です。


凌は先程習得した必殺技名を叫びます。


「竜王の咆哮!(ドラゴンズ・ロアー)」


剣の先に小さな明かりが灯ります。


「なるほどね。便利…」


自分のイメージする必殺技とはかけ離れた使い道に少し複雑な心境の凌ですが

真っ暗な中薪を探すよりはいいと自分に言い聞かせます。



「ハル、暗くて危ないから手貸して。」


凌はそっとハルの手を握ります。


初めて握ったハルの手は柔らかくて温かくて、それは目をつむっていても分かるほどに女の子の優しい手でした。


なんだか恥ずかしくて凌はしばらくハルの顔を見ることが出来ずにいましたが

ハルはハルで赤らんだ顔を隠すように、薪を探すフリをして凌とは逆の方を見ていました。



薪を拾い終えた二人は先程の場所へ戻ります。



痔はまだ食材を調達しに出かけたままでした。


「ボラギ・ノールはまだ帰ってきてないね。

大丈夫かな?てか、魔界の食材って一体何なんだろうか…」



「私たちでも食べられるような物だと良いですね…」


しばらくして帰ってきた痔は

二人がイメージしていた姿ではありません。


なに食わぬ顔で買い物袋を手に下げています。


「ボラギ・ノール…それは?」



「はい?食材ですが…

近くのfor you(スーパー)で買って参りました。」



今回もあえてツッコミを入れなかった凌が買い物袋の中身を見ると

中には鶏肉、玉ねぎ、ニンジン、じゃがいも、米、そしてルーが入っていました。




一応確認のため凌は痔に問いかけます。

「これで何作るの?」


「もちろんミン・パドゥーラです!」


「カレーだろ。」



薪に例の如く竜王の咆哮(ドラゴンズ・ロアー)で火を着け

痔がミン・パドゥーラ(カレー)を作り、みんなで美味しくいただきます。



「それにしても魔界に来ることになるとは思わなかったな。

案外いい経験させてもらってるのかもな俺。」


「本当ですね。魔界は少し危ない場所ですが

きっととてもいい思い出になりますね!」


ハルが美味しそうにカレーを頬張りながら答えます。



二人の会話を聞きながら微笑む痔を見て

凌は魔族の友達ってのも悪くないなと思っています。


今度はサタンと佐久間君も呼んで魔界バーベキューなんていいな

そんなことを考えながら楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。



「もう遅くなって参りましたのでお二人はお休みになってはいかがですか?

わたくしは一応魔除けの結界を設置してから休みますので。」

痔が言います。



「そうだな。ありがとうボラギ・ノール。

てか、魔除けの結界ってお前は大丈夫なの?」


「魔除けと言ってもあくまでも低級魔族に有効な気休め程度の物ですし、術式を展開したわたくしには影響はありません。

この辺りは低級しか生息しておりません故、ご安心を。」


結界の設置を痔に任せ

凌とハルは布団に入ります。



ん?布団?

と思ったそこのあなた!


先程痔がfor you(スーパー)の家具コーナーで布団を買ってきてくれていたのです!


さすが痔!そしてさすがfor you!

痔の気遣いとなんでもそろうfor youの絶妙なコンビネーションです。


食材もあったので痔一体ではさすがに二人分の布団は持てず

一人分の布団しかありませんが、詰めれば二人寝れなくもありません。



「で…では、寝ましょうか…凌さん…」


「そ@vf/a:…そうだな…ハル…」


初々しく、見ていて微笑ましい二人です。



布団に入った二人の視界に広がるのは満点の星空で

まるでプラネタリウムを見ながら横になっているようです。


「キレイだね。」


「ほんとにキレイです。」


流れ星を探しながらしばらく夜空を見ていた二人はいつの間にか眠りに落ちていました。


結界の設置が終わった痔は、焚き火の近くであぐらをかいたまま腕を組んで眠っています。



こうして二人と一体の忙しくも充実した1日は終わっていきました。

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追憶の召喚 りょーさん @tsubakitsubasa

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