第13話 旅の始まり

前話のラストはなんだか不穏なワードで締め括られたような気がしますが

気にせず話を進めましょう。


今日は明日からの旅に向けて二人で買い出しということで

凌とハルはペンギンのマスコットキャラが目印のディスカウントストアに来ています。



「買い出しって言っても何が必要なんだ?わざわざ出向いたものの、今のところ歯ブラシとシャンプーとトリートメント位しか思い浮かばない…」


まだ何も入っていない買い物かごを持ち考え込んでいる凌にハルが言います。


「そうですね。現地でも手に入るものが多いので、着替えさえ持っていけば意外と問題ないのかもしれませんね。

荷物は少ない方がいいですし!」



ディスカウントストアに来たものの

結局、必要最低限の物だけを揃え

思いの外短時間で店を後にした二人。


「これだけなら近くのドラッグストアで良かったな…」

そんなことを思いながら歩く凌の腕を、何かを見つけたハルが揺すります。


「凌さん凌さん!あの賑やかなお店は何なのでしょう?」


「あぁ、あれはゲームセンターっていって、遊戯用の機械がたくさんあるお店だよ。

もう買い物も終わっちゃったし入ってみようか?」


凌の提案に目を輝かせたハルが勢いよく頷きます。


店内に入った二人は一通りゲームを見て回ります。


「凌さん!これやってみたいです!」


ハルがワクワクしながら指をさしているのは

車に乗り込んでジャングルの中を冒険するという設定のシューティングゲーム。


最大二人でのプレイが可能で

襲いかかってくる敵をマシンガンでぶっ倒します!


「二人でできるしやってみようか!まだ前のお客さんが入ってるから

終わるまで待ってよう。」


「はい!…あれ?…」


そのゲームは小さな個室のように仕切られているのですが

隙間から少し見えている中の様子にハルが何か気付いたようです。


「凌さん、この中の人、サタンさんではないですか?」


「いやいや、サタンがゲームセンターにいるわけ…

あぁ、サタンだね。隙間から角見えてるし。」


またしてもサタンの様です。

知り合いと分かればやはり話しかけるというものです。


「よっ!サタン!なんでお前がゲームセンターにいるんだ?」


ゲーム機の中と外を遮っているカーテンをめくり、中のサタンに向かって凌が話しかけます。


「どうせなら俺らと一緒に…」

と言いかけて言葉を止めます。


振り返ったのはサタンではありませんでした。

角は生えていますが別人?です。


「なんだ貴様は?何故サタン様を知っている?」



「すいません!人違いでした!悪魔違いでした!」

慌てた凌はサッとカーテンを閉めます。


それと同時にサッとカーテンを開けたそいつは凌に問いかけました。


「そう慌てずとも良いわ人間よ。

何故貴様がサタン様を知っているのかと問うておるのだ。

おっと、まだ名乗っておらんかったな。

我が名はポラロイド・ボラギ・ノール。貴様の名はなんと申す?」



「ぼっ、ボラギノールだと?お前メチャクチャな名前だな!痔なのか?


俺の名前は凌だよ。サタンは俺が召喚した使い魔みたいなもんだ。

お前こそ何者なんだ?」


ツッコミと質問を済ませた凌にボラギ・ノールが答えます。


「なんだ、サタン様を知っているクセに私を知らんのか。…まぁ良い。私はサタン様に仕える上級悪魔。

今魔界はかつてない危機に面しているのだが、魔王であるサタン様不在の為、急遽、サタン様が召喚されたと聞いている人間界にお迎えに上がったのだ。

サタン様の居場所を知っているのであれば教えてもらおうか。」


少し考えた凌は答えます。


「…いや、ムリだ。サタンは俺の代わりにこれからバイトに入るんだ。

だから魔界に帰すわけにはいかん。

あと、痔に効く薬みたいな名前の悪魔は知らん!」


「ばいと、だと?なんの事かは知らぬが貴様先ほどからサタン様を呼び捨てにしおって!不敬極まりないぞ!

とにかくサタン様のところまで案内してもらおうか。」


「わかったわかった。案内だけならしてやるよ。

今から俺らはそのゲームをやるから終わったらな。」


そう言った凌はハルと一緒にゲームを始めます。


「待たせてしまって良いのですか?」

心配そうにハルが問いかけます。


「かまわんよ。さぁ始めよ!」


ゲームスタートと同時に凌の操作するキャラは即死。

この手のゲームは苦手なようです。


横からカーテンを開けて様子を見ていたボラギ・ノールは半笑いです。


「なんだ人間よ。情けないこと限りないな。良いか?あの巨大グモはまず足を撃つのだ。」


何故か得意気なボラギ・ノールの指示でやっとの思いでラスボスまでたどり着き、それを倒した凌とハルは

待っていたボラギ・ノールと共にゲームセンターを後にします。


佐久間君に電話をかけサタンが家にいることを確認し

3人…いや2人と1体は佐久間君の家に向かいます。


突然ですが毎回"ボラギ・ノール"と表記するのも面倒なので、以後"痔"と表記することにしましょう。



しばらくして佐久間君の家についた凌とハル、そして痔は玄関から出てきた佐久間君に挨拶します。


「突然押しかけてごめんね。さっき電話で話した通り、サタンを探してるやつがいてさ。」


「全然かまわないよ!そこの彼がその人物?だね。ちょっと待ってて!」


そして部屋からサタンを呼んできた佐久間君。

待っていた痔を見てサタンが驚きながら大声で問いかけます。


「ボラギ・ノール!何故お前が人間界に!?一体何があった?」


「ちょっと待てサタン。あんまりでかい声でその名前を口にするな。なんか俺が恥ずかしいだろ。」

凌がすかさず言います。


そして、痔がまた話し始めました。

「実はサタン様、サタン様が魔界を離れて数日後、魔界はこれまでにない危機に陥ってしまいました。

どうか今すぐにでも魔界に戻り、解決して頂けませんでしょうか。」


それを聞いたサタンは困っています。

「うむ…魔界に戻ってやりたいのは山々なのだがしかし、凌様との約束がある故な…」


困っているサタンを見て痔が言います。

「サタン様がそうおっしゃるのであれば…

どこかに手が空いていて、魔界を救ってくれる者がいたら…」


そう言いながら痔は凌の方をチラチラ見ています。


おい、なんで黙っているサタン。なんか言えよ。ボラギ・ノールがこっちをチラチラ見てるからやめさせろ。

凌は心の中で言いました。



……………。



おいおい、なんだよこの空気は。完全に俺が行かなきゃいけない流れではないか。

また心の中で呟きました。


そしてしばらく考えた末、諦めがついた凌が言います。

「…まぁサタンには礼もあるしな。

わかった。行ってどうにかなる問題かもわかんないけど俺が行くよ。」


それを聞いたハルも言います。

「凌さんが行くのであれば私もお供しますよ!

旅は魔界から帰って来てからでも行けますから!」


と、言うことで急遽魔界へ出向くことになった凌とハル。


サタンには及ばないものの、同じく上級悪魔である痔は自身でゲートを開き魔界と人間界を繋ぐことができます。


痔の呼び出したゲートに二人と一体は入り込みます。


「それでは凌様。魔界をよろしくお願いいたします。どうかご無事で!」

サタンが激励の言葉を言い終わるのと同時にゲートの入り口は閉じ、凌達はまるで異次元空間のような通路を歩き出します。


「凌様。先ほどまでのご無礼をお許しください。まさか誠にサタン様とあのような関係性を築かれているとは思いもよりませんでした故。」


佐久間君の家でのやり取りの中でサタンと凌の関係性を知った痔はいつの間にか敬語になっています。


「別にいいよ。お前らのことを部下にしたつもりはないんだし。

そんなことよりこの通路長くない?」


「お気遣いのお言葉、感謝致します。近々終わりが見えてきますのでもう少しの辛抱です。」


体感10分程歩いたところでゲートの終わりにたどり着いた凌達。


ゲートの終わりには駅の改札のような物が設置されていました。


「なにこれ改札あるじゃん。

もしかしてPASMO使えたりして(笑)」



ピピッ!


凌が冗談のつもりでかざしたPASMOがしっかり反応します。


驚いた痔は凌に言います。

「何故既にそれをお持ちで!?ここは専用の通行手形"MAMONO"が必要な改札なのですが…」


「改札って言っちゃってるじゃん。しかも"マモノ"っておい。いろいろと設定に問題があるだろ。」


ハルは痔からMAMONOを受け取り改札を通ります。


全員が改札を通り抜けると異次元空間は消え去り

辺りには凌の見たことのない景色が広がっています。


剥き出しの岩肌、そして辺り一面に草木は一切生えていません。


空模様もなんだか不穏な雰囲気を醸し出しています。


「あれ?この場所は…」

あたかも見覚えのあるような言葉を放ったハルは少し間をおいて

何か思い出したように言います。


「あっ!夢で見た場所ですね!」


こうしてハルの初夢は正夢になってしまったのでした(笑)


これからこの魔界で問題を解決しなければならないと思うと気が重くなります。


新年早々にデンジャラスな展開だぜ!

そう思った凌でした。

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