第9話 空回りとみたらし団子と笑顔

ひとまずはしばらくの間ハルと一緒にいられる事になったという喜びの反面

夢を叶えた後、帰してあげられるのかが不確かになってしまった申し訳なさもあります。



凌は一刻も早く魔方陣の謎を解明しなければならないなと思っていました。



しかし、

なんと言っても今日は大晦日。



ハルに笑顔で新年を迎えてもらいたい凌は

とりあえずこのモヤモヤしてしまった空気を元に戻して楽しいデートにしなくてはと思っています。



電車に乗って大きな商店街に着いた二人。


オシャレな雑貨屋さんやアパレルショップなどはどこも年末セール中で

大晦日というのにいつもと変わらぬ賑わいを見せています。




さぁ!

今こそジェントルマン凌の気の効いた一言で空気を一変させる時です!






「うへへへっ!、どこもかしこもセール中で賑わっておるのぉ!よいぞよいぞ~!」


注:凌のセリフ




完全に空回りです☆


空回りし過ぎてキャラ設定がブレてしまいました。




「りょっ、凌さん!?その口調どうなさったんですか!?


先程から無理に気持ちを高揚させようとしているように見えるのですが。


……もしかして…気を使ってくれているのですか?


でしたら私は本当に大丈夫ですよ!


こうして二人で楽しい時間を過ごせていますし、それにきっと魔方陣のこともどうにかなりますから。


ですから今は何も考えずにお買い物を楽しみましょうよ!」




またしても逆に気を使わせてしまいました。



「そうだよね。ありがとうハル。ちゃんとなんとかするから。」



ムリしてはにかんでみせた凌を見たハルは堪らず声をかけます。




「凌さんがそんなに気負いすることはありませんよ。


私の我が儘に付き合ってくれている上にこんなにも優しくしてくださって、それだけで本当に十分なんです。



あっ、そうだ!

何か食べましょう!


みたらし団子!

私、みたらし団子が食べたいです!



商店街には食べ物屋さんの出店が所々に並んでおり

その一つを指差すハルに引っ張られ、お団子屋さんの前に着いた凌。



出店に立っている優しそうなおばあちゃんにハルが勢い良く声をかけます。


「こんにちは!みたらし団子、お一つくださいな!」



ニッコリ微笑んだおばあちゃんが言います。


「おやおや、かわいらしいねぇ。二人ででーとかい?

みたらし団子ね!

一本120円だよ。」



ハルがパーカーのポッケに忍ばせていた、かわいらしい和柄のがま口財布を取りだしお金を出します。



ハルが取りだした硬貨を見たおばあちゃんは、おや?という顔をしています。



その様子を見ていた凌は慌てて言いました。


「あっ!ごめんなさい!俺が出します!」


ハルの出した硬貨を急いでがま口に戻し、自分の財布から120円をおばあちゃんに手渡す凌。



ハルが出したのはハルが生きていた時代の硬貨です。


考えてみればこの時代のお金をハルが持っている訳がありません。



「ごめんなさい凌さん。私、お金を持って来ているつもりでいたのですが…お役に立てませんでした…」



今度はハルが少し落ち込んでしまいました。



そんなハルを見て凌が言います。



「そんなの別に落ち込むことじゃないよ。


さっきだって俺に気を使って

みたらし団子食べたいなんて言い出したんでしょ?


ありがとうね。


さっ、あっちに座って食べよう!」




「はいっ!食べましょう!」



商店街の少し外れにある小さな公園のベンチに座った二人は

さっき買ったみたらし団子を仲良く半分こして食べます。



「美味しいね!」


「はいっ!とても!」





気を使ったつもりが空回り。


どこか似ている二人は気が付けばまた笑っています。





みたらし団子を食べ終え再び商店街に戻り

小一時間程見て周った二人。




「この後は食材を買ってお家に戻るのですよね!晩御飯は何にしましょうかね!」


ハルがワクワクしながら言います。



「あっ、ちょっとその前に。せっかく商店街まで来たんだから行きたいお店があるんだ。」



そう言った凌がハルを連れてきたお店はアパレルショップ。



「洋服屋さんですね!現代の着物屋さんには一体どんな物が売っているのでしょう。楽しみです!」



店内に入ると物珍しそうに頻りに辺りを見渡すハル。



「何か着てみたいものあったら試着してみなよ。」



「う~ん、現代の着物はどう着たら良いのか分かりませんね…

あっ!これなんかはどうでしょう?


形も日本の着物に少し近くて着やすいような気がするのですが。」



ハルが手にしたのはチェック柄のチェスターコート。


鏡の前にハルを立たせたた凌はコートを着せてあげます。




「い…いかがでしょう?」


洋服を着慣れていないハルは少し照れ臭そうです。



「うん!似合うと思うよ!可愛い!それ、買おっか。

着物は着れないから服ないと困るし。」



驚いたハルは答えます。


「それはそうですが、私、現代のお金を持っていませんので…」



「お金のことは気にしなくていいよ。ほらっ、ちょっと遅めのクリスマスプレゼントってことで!」



「くりすますぷれぜんととはなんでしょう?」



「あ、そっか。

クリスマスっていう催し事があって、その日にあげる物だよ。

俺からのプレゼントだから、ハルは素直に受け取ればいいんだよ。」



20分程店内を見て回り

ハルの選んだコートに合うセーターやパンツ、靴などをまとめて購入して店を出る二人。



「あの、凌さん。こんなにたくさんありがとうございます。」



「いいよいいよ!商店街まで来たのは元々このためだったし。」



「私もいつか凌さんにぷれぜんとしたいです!」



「うん、じゃあ楽しみに待ってるね。さっ、食材買って帰ろ!」



「はいっ!」



商店街を出た二人はそのまま駅へ向かい電車に乗り込みます。



いつの間にか太陽は沈みかけ

辺りはだんだんと薄暗くなってきました。



夕焼けに照らされた町並みを眺めながら二人は電車に揺られています。

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