第7話 1日の終わり
寒空の下歩く二人。
時刻はもう午前2時を回ろうとしているところですが
凌の家までの道のりもあと僅か。
家までの道のりの途中、道の端にポツンとお地蔵さんが立っている場所があります。
凌はいつもそこの前を通る時軽く会釈したり、心の中で「こんにちは」と挨拶したりしています。
ご高齢の方ならともかく、まだ若いのに変わっていると言えば変わっているのかもしれませんが
凌は昔からお地蔵さんにはきちんと挨拶するタイプなのです。
どんなタイプだよ!と言われても
そういうタイプなのです。
たまに1日の出来事を報告してみたりとかしちゃうタイプです。
いつものお地蔵さんに今日も軽く会釈をすると
それを見ていたハルも一緒に会釈をしました。
「凌さん偉いんですね。お地蔵さんもきっと凌さんのこと覚えててくれていますよ!」
「ハハッ!いつもの習慣さ!☆」
語尾に「~さ!☆」なんて今時流行りません。
そんなことを話している間に凌の住んでいるアパートの前に着きました。
「ここが俺の家だよ。」
「凄い所に住んでいるのですね!まるでお城のようです!」
ハルが驚いて言います。
「いやいや、これ全部が俺の家じゃなくて、この中にいくつも部屋があるんだよ。その中の一個が俺の家ってこと。」
「なるほど!その他の部屋は家来たちの家になっているということですね!」
「うん、違うね!出会ってから今まで俺が王様や殿の類いだというくだりはなかったし、家来がいるなんて話もしてないよ。」
二人は階段で3階まで上がり、部屋の鍵を開ける凌。
扉を開けて玄関の電気を付け、靴を脱ぎます。
「ハルも上がりなよ。」
「はいっ、お邪魔致します!」
部屋の電気を付けた凌はすぐにエアコンの電源を入れ
「すぐに暖かくなるからね!」とハルに告げます。
ハルは返事をすると、借りていた上着を思い出し、脱いで凌に渡しました。
「上着、ありがとうございました。暖かかったです!」
「あっ、うん!とりあえずそこに座ってなよ。」
凌がソファーを指差して言いました。
そして、ソファーにゆっくりと腰掛けたハルが凌に訪ねます。
「そういえば今日は大晦日ですけど今夜もバイト?はあるのですか?」
「いや、今日はさすがに休み取ってるよ。まぁほんとは今日の朝まではバイトだったんだけどね。そうだ!今日は起きたら二人で買い物行って、ご馳走食べながら年越そうよ。」
「!それは素敵ですね!では私、何かおいしい物お作りしますね。」
「やったー!楽しみ!…って、そういえばもう3時前だね。そろそろ寝よっか。」
「そうですね…私も少し眠くなってきてしまいました。」
「お風呂入るでしょ?使い方教えてあげるから入ってきな。」
そう言うと凌はクローゼットからタオルと凌の部屋着を取り出しハルに手渡します。
「これ俺の部屋着だからちょっと大きいかもだけど使って。着物より楽で過ごしやすいと思うよ。」
そしてお風呂場で、シャワーの使い方、シャンプーにトリートメント、ボディーソープの説明を一通り済ませた凌は部屋に戻ります。
ソファーに座った凌は大事なことを思い出しました。
「そう言えば魔方陣…」
公園にいた時、凌はまさかほんとに召喚が成功するとも思っていなかった位なので
当然ながら魔方陣に関する知識はほとんどありません。
一度目にサタンを呼び出した折
驚きのあまり咄嗟に魔方陣を消したことで、魔方陣が消えると召喚された者も一緒に消えるということが発覚しました。
魔方陣が消えると召喚された者も消える…
ということはハルは?
もし万が一魔方陣が消されていたら
バイト先に行ったサタンも消えているかもしれない…
「っべーよ!これ、っべーよ!」
(訳)「ヤバいよ!これ、ヤバいよ!」
(意)非常に焦っている様子。
焦燥感に刈られた凌は明日もう一度公園と高台に向かい
魔方陣を確認してみようと思いました。
約30分の間焦燥感に刈られ続けた凌に
スウェットに着替え、シャンプーのいい香りを纏ったハルが声をかけます。
「凌さん、今上がりましたよ!」
凌は痩せ型体型なのですが
やはり男物のスウェットはハルにとっては大きいようで
ルーズな着こなしになっています。
そうです。その姿は言うまでもなく「萌え」なのです。
その姿を一見した後、ドライヤーの使い方をハルに教え
凌もシャワーを浴びます。
そして、似たようなスウェット姿、同じシャンプーの匂いになった二人は
もう間もなく1日を終えようとしています。
凌はソファー、ハルはベッドにそれぞれ横になり
凌は部屋の明かりをリモコンで消します。
「お休み!」
「はい!お休みなさい。」
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