第4話 初勤務!と不発

どうやら凌のシフトをサタンが埋めるようですね!


初勤務頑張れ!サタン君!



「初めましてサタン君!どういう経緯で凌君の代わりに君が来たのかは分からないけど、と言うか、そもそも君が人間であるのかすら怪しいところだよね!角生えてるしね!まぁそれはともかく今日はお願いね!」


終始にこやかなスタッフが話しかけてきました。



「あの、スタッフさん、僕は何をすればいいんでしょう?」



「そしたら、品出しは僕がやるからサタン君はレジやって貰えるかな?いきなりでいろいろと覚えること多いんだけど頑張ろうね!あっ、あと、僕は凌君と夜勤をやってる佐久間だよ!よろしく!」



「はいっ!よろしくお願いします!」



着た事もない新しいコスチュームに身を包みレジに立つサタン君。

初めての経験には不安は付き物です。

しかしそれと同時に、これからどんな未来が待っているのかと期待に胸を踊らせてしまうのもまた事実。


おぼつかないレジ操作ではありますが、彼は今、紛れも無くスタッフの一員です。


サタン君は思いました。

働くって素晴らしい!生きるって素晴らしい!と。



最初の二時間はあっという間でした。


「サタンくーん!お客さんの入りも落ち着いてきたから休憩入ってきていいよ!」



「はいっ!ありがとうございます!」



精一杯働いたサタン君。

もうお腹はペコペコです。

別れ際凌にもらった千円で購入したカップ麺にお湯を入れながらふと思いました。



「あれ?……何この流れ?俺、魔王なんですけど。なんで魔王がカップ麺にお湯注いじゃってんの?てか、なんでアルバイトで気持ちいい汗流しちゃってんの?」



そう思うのも当然です。

凌に召喚される前、つまり魔界では大きな城に住み、身の回りのことは下級悪魔達が何でもしてくれていました。


たまに城を攻略してきた戦士達を魔術攻撃で打ちのめす以外は

基本的には部屋でテレビを見ていました。


好きな番組は"魔界アイドル発掘!今夜は貴方がプロデューサー!"でした。

ちなみに、特番です。



そんなサタン君ですから、自ら働き汗を流すことなど想像したこともありません。



「サタン君?サタン君大丈夫?すごい考え込んじゃってるけど…もう3分経つんじゃない?麺、のびるよ!」


佐久間さんが話しかけてきました。



「あっ、すいません!」



「初勤務で疲れちゃったよね。はいっ!これ飲みなよ!」



「ありがとうございます。」



くれたのは栄養ドリンクでした。

佐久間さんは初対面の自分にすごく良くしてくれます。



つい数時間前までは魔界の王として君臨していたサタン君ですが

なぜか今の方が充実感を感じています。


もしかして、自分の求めていたものは"支配"でもなく、"力"でもなく

"何気ない優しさ"そして、"何気ない幸せ"だったのかもしれない。


そう感じ始めたサタン君でした。






一方その頃。凌はというと…


見事サタンを倒した凌は

今度こそ自分好みの使い魔を召喚しようと意気込んでいました。



気分転換に公園から場所を変えて、見晴らしのいい高台で次の召喚をするようです。


ここは、近くの神社の細い裏道を上った先にある

街を見渡せる景色のよい場所。


凌はいつも中2シーズンになるとここへ立ち寄り空を見ながらたそがれるのです。



桜の木が一本立っていて

そばにはベンチが一つあります。


そこに腰掛け、夜空を見上げて一息つきます。



今夜はとても冷え込んでいるので空気が澄んで星がキレイです。



ここに来る前に自動販売機で買ったココアを一口飲みました。


缶のココアにはまだ十分に温もりがあり、冷えきった凌の体をじんわりと暖めました。



一息ついて凌は立ち上がります。



「さぁて、そろそろ召喚しちゃいますかね!ヒロイン!」



立て続けの召喚による疲労と寒さでテンションが少し変です。



前回同様魔方陣を地面に描き終え

詠唱をします。


「夢は何処。花は何処。時に忘れ去られし忘却の地。ならば今一度呼応せよ。風巻きて桜花散りゆく刹那の時を再び此処へ与えたまわん!」



目の前の桜の木を意識した詠唱の内容に、凌は我ながらあっぱれな気持ちでした。


もしかしてこの短時間で詠唱のスキルが上がっちゃったのかも!

もしかしたら俺はその道の天才なのかも!とか思っています。



しかしどうしたことでしょうか。

凌のイメージでは桜の木の下辺りに着物姿のかわいらしい女の子が召喚されるイメージでしたが現れません。



「あれ?…不発?」



今までの召喚は一応確率的には100%成功でした。

まぁ全部サタンでしたが。


思わぬ不発でさすがに拍子抜けした凌はまたベンチに腰をおろしました。



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